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“世界最大”と安倍首相が喧伝する新型コロナウイルスに対する日本の経済対策。はたして、その実態はどのようなものか、識者に採点してもらったら、驚くべき結果に……。

 

「事業規模は230兆円を超えるものとなります。GDPの4割に上る、世界最大の対策によって、この100年に一度の危機から、日本経済を守り抜いてまいります」

 

5月27日、新型コロナウイルスの感染拡大に対応する第2次補正予算についてこう胸を張った安倍晋三首相。4月に編成された第1次補正予算などとあわせると、“世界最大規模”のコロナ対策費になると、喧伝しているがーー。

 

経済学者で「暮らしと経済研究室」の山家悠紀夫代表は指摘する。

 

「首相が強調している“事業規模”とは、そもそも“絵に描いた餅”です。この政策を実行すれば、民間の金融機関や企業が資金を出すだろう、という想定で積み上げられた日本独特の数字です」

 

もっとも重視されるべき数字は国が財政支出する「真水」といわれる部分だという。

 

「需要を喚起したり、国内マーケットに直接注入されたりして、経済を押し上げる効果がある予算です。海外で支援策を事業規模で示している国はありません。基本的に、経済対策は“真水”で示されます。安倍政権の経済政策は誇大宣伝に近い」(山家さん)

 

第1次補正予算で計上された“真水”の部分は、一律10万円の給付金や、中小企業や自営業者に給付する最大200万円の「持続化給付金」などが該当する。

 

さらに、第2次補正予算では、「持続化給付金」の対象拡大のほか、最大600万円を支給する「家賃支援給付金」なども追加。

 

その結果、真水部分は合計“約58兆円”と、過去の災害時などと比べても、最大のものになった。とはいえ、GDPの1割ほどで、安倍首相が言うGDP4割にはほど遠い……。

 

京都大学大学院の藤井教授は「その真水でさえ“張り子の虎”になる可能性がある」と指摘する。

 

「たとえば第2次補正予算の“真水”は約32兆円と言っていますが、約12兆円分の『企業への資金繰り支援』は実質、融資であるため真水とは言えません。必ずしも返済が強要されない“劣後ローン”を使えば真水として機能しますが、適切に運用されるかは未知数です。約10兆円分計上された、使い道を決めていない“予備費”も、柔軟な判断にもとづいて支出されれば真水になりますが、財務省には『使い切るな』という声も根強い。現時点で真水になると確定している部分はわずか。予算執行が適切に行われているかどうか、しっかり見守り続けることが重要です」

 

これらも踏まえ、安倍政権の「コロナ経済対策」について、第一生命経済研究所首席エコノミスト・永濱利廣さんと同志社大学大学院・浜矩子教授に点数をつけてもらった。10個の政策が各10点満点で、合計100点満点になる。

 

【1】国民全般の支援策

内容:国民全員に一律10万円の給付、生活資金の無利子貸し付け(最大20万円)、一定所得以下ひとり親世帯への特別給付金(1世帯5万円、第2子以降1人につき3万円)、住民税などの猶予制度など。

 

<永濱さんの点数・5点>
国民への10万円の現金給付、ひとり親世帯への特別給付金はいかに早く困った人に生活資金が届くことが重要。それなりに金額を積んだが、どうしようにも支給が遅すぎる。

 

<浜教授の点数・6点>
辛うじて合格点。それなりに手早く人々の手元に届く(はず)。使途の制限をつけていないので、ほかの目的のためにも使える。

 

【2】雇用者(サラリーマンなど)の生活支援

内容:休業手当を出した企業に支給する雇用調整助成金の拡充(働き手1人あたりの上限は1日1万5,000円)、休業手当を支給されずに休業させられた中小企業の従業員への直接支援金(休業前の賃金の8割、月額上限33万円)など。

 

<永濱さんの点数・3点>
雇用調整助成金の拡充は評価できるが、複雑な手続き、給付事務のトラブルなどで遅れも。雇用維持だけでなく産業構造の変化にともなう雇用創出への支援、失業者の就業支援なども不可欠。

 

<浜教授の点数・3点>
雇用調整助成金などは複雑な手続きのために、申請を嫌がる会社が多い。申請手続きの簡素化などが不十分。本気で使ってもらいたいと考えているのか。

 

【3】自営業者、フリーランス、企業への支援

内容:収入が半分以下になった自営業者への持続化給付金(中小企業は上限200万円、個人事業者は上限100万円)、無利子・無担保融資や返済の優先順位が低い劣後ローンの支援、法人税などの猶予制度など。

 

<永濱さんの点数・5点>
一刻を争う事業主への支援「持続化給付金」も動きが鈍い。返済を必ずしも強要しない「劣後ローン」より効果的な「永久劣後ローン」まで踏み込んでいい。

 

<浜教授の点数・3点>
「雇用者の生活支援」に同じ。持続化給付金も給付の遅れが出ている。心底、お役に立ちたいと考えているのか。

 

【4】教育支援

内容:休校で休まざるをえない保護者に対して有休を取らせた企業への助成金、大学などの授業料の減免、住民税非課税世帯の学生への最大20万円給付、リモートワーク支援など。

 

<永濱さんの点数・5点>
学校等休業助成金などは一定の効果あるが、遠隔教育の環境整備、遅ればせながらもできた困窮学生の支援などとともに、教育支援は石橋をたたきすぎで、すべてにおいて遅さが目立つ。

 

<浜教授の点数・5点>
メニューをそろえた観はあるが、どこまで実効性があるか疑問。

 

【5】地方自治体支援

内容:地方公共団体に対する地方創生臨時交付金(合計約3兆円)の交付など。

 

<永濱さんの点数・5点>
各自治体が対応する協力金は、感染防止効果もあり評価できるが、事務作業の複雑さから支払いに遅れも。使い道を自治体が決められる「地方創生臨時交付金」も増額したが、各自治体によって状況が違うため独自の対応が不可欠。地方債を自由に発行しやすくするなど自治体の資金調達をサポートすることも必要。

 

<浜教授の点数・2点>
現状への対応が、どこまで有効なのか疑問。

 

【6】店舗の休業支援

内容:休業要請に従った店舗や企業に対する協力金(各都道府県が主体)、売り上げが大幅に減少した事業者に対する家賃の補助(法人は月100万円、個人事業者は月50万円が上限)など。

 

<永濱さんの点数・5点>
「地方自治体支援」に同じ。

 

<浜教授の点数・2点>
休業要請には補償が当然伴うべきだが、不十分なものになっている。

 

【7】国民への医療支援

内容:布マスク(アベノマスク)の配布、PCR検査の保険適用、妊婦のPCR検査への助成など。

 

<永濱さんの点数・3点>
布マスクなどが象徴だが、すべてがかゆいところに手が届いていない。精度の高いPCR検査、抗体検査を積極的に導入した隔離対策で経済活動は可能に。迅速な対応ができていない。

 

<浜教授の点数・0点>
アベノマスク減点分ですべて台無しに。まだ、マスクを配り続けている。

 

【8】感染拡大防止と医療機関への支援

内容:診療報酬の引き上げ、感染者を受け入れている医療機関への補助金、患者と接する医療従事者等への慰労金(最大20万円)、ワクチン開発支援、医療物資支援など。

 

<永濱さんの点数・3点>
新型コロナウイルスに対する恐怖心が解決されなければ経済は戻らない。ワクチン開発などの医療支援は最優先だが日本の医療関連の支援はGDP比でアメリカの半分程度。効果的な支援になっていない。

 

<浜教授の点数・6点>
当然やるべきことを一応列記したという意味で辛うじて合格。あとは、どの程度実行できるか、見守る必要がある。

 

【9】農業、畜産業、漁業などへの支援

内容:持続化給付金、経営維持のための経営継続補助金の支給、その他品目別の支援金や給付金など。

 

<永濱さんの点数・5点>
新型コロナウイルスで、世界に拡大したサプライチェーン(原材料や部品の調達や配送)が機能不全に陥ったことから、食の分野でも国産回帰が。政策自体はいいがスピード感は期待できない。

 

<浜教授の点数・4点>
今回の状況に対応した目新しさが、どこまであるのか疑問。

 

【10】コロナ後の復興支援

内容:GoToキャンペーン事業。「観光・運輸」「飲食」「イベント・エンタテインメント」「商店街振興」に対するクーポンやポイント等を消費者に給付。

 

<永濱さんの点数・3点>
需要を喚起するキャンペーン自体は一定の効果が期待できるが、今のタイミングではない。さまざまな業態でのアフターコロナの新しい生活様式の見直しに予算を出すほうが効果的。

 

<浜教授の点数・1点>
GoToキャンペーンとは何たるネーミング。真剣だとは思えない。

 

まず、浜教授の評価。

 

「最大の問題は政策姿勢です。本当に世のため人のためになろうと真摯に考えているとは思えません。自分たちがどう点数を稼ぎ、どう減点を防ぐしか考えていない」

 

「国民への医療支援」では0点をつけた浜教授。100点満点で32点という厳しい評価となった。

 

一方、永濱さんも手厳しい。

 

「すべてにおいて遅すぎます。たとえば第1次補正で決まった給付金や助成金は、第2次補正が閣議決定されたあとでも、いまだに申請した半分程度しか給付されていない。雇用調整助成金も支給のタイミングが遅れて、結局、雇用を守れないという事態になったら意味がありません」

 

「政策全体がスピードに欠けるため、5点以上をつけられない」という永濱さん。さらに政治の姿勢にも問題があるという。

 

「日本の場合は財務省にあたる財務当局は、どの国でも、ムダ遣いをしないように予算を絞るもの。しかし、それを覆して多く予算を出させるのが政治家の仕事。各国が似たような状況の中、日本政府の危機感の欠如が目立ってしまっています」

 

結果、総合42点と“合格点”とは言えない点数になった。

 

「女性自身」2020年6月23・30日合併号 掲載

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