この日の記者会見では、福島県から嫌がらせのような行為を受けている避難者からの手紙も読み上げられた。そこには原発事故から10年目の、こんな悲痛な叫びがあった。
「“死ね”そんなふうに(福島県から)言われているように思えてしまう。正直もう死んだほうがいいのかと、何度も頭をよぎったこともあります」
「私は生活すべてを面倒見てくださいなんて言っていません。生活する分は自分で精一杯なんとかするから、どうか住むところだけは奪わないでくださいとお願いしているだけなのです」(Aさん)
このAさんは40代女性。
原発事故のあと、福島市から東京に単身で避難。斡旋された国家公務員宿舎で避難生活を続けてきた。パートや契約社員として働いてきたが、心身のバランスを崩し、1年間ほど働けなくなったこともあった。現在は、ようやくパートで食いつないでいるが、それでも収入は月10万円程度。
前出の熊本さんは、こう付け加える。
「彼女は福島に住む老親に心配かけまいとがんばっていたのに、自宅にまで押しかけて『損害賠償金はいくらいくら溜まっている。分割でいいから払ってほしい。そうしないと私たちは給料をもらえない』などと言って、法的手段に訴えることをちらつかせています。
そもそも、彼女は通常の家賃なら払うと言っているのに、福島県は“2倍”の額を記した請求書を毎月送りつけてきているのです。生存権の侵害です」
2倍請求された額は、ひと月で約4万円。手取り10万円の給料から支払うのはギリギリで、引っ越し費用を貯めることは難しい。
福島県は「ていねいに寄り添う」と言って、住宅に関する相談会などを開いたこともあるというが、住宅斡旋業者を連れてきて避難者に紹介するだけ。Aさんも参加したが、その後、具体的に住宅を紹介されることもなかった。
「だったら福島に帰ればいいと言う人もいます。しかし、原発事故から10年経って、避難先での生活が日常になっている。子どもの学校、仕事、コミュニティ……。実家との関係が悪く、帰る場所のない人だっているのです。“原子力緊急事態宣言”はいまも発令中で、原発事故はまだ終わっていないのに、一般的な災害に当てはめて住宅支援を打ち切るのはおかしい。原発事故の犠牲者に、これ以上の“自助”を強いるのは間違っています。原発事故に即した新たな法整備を進めるべきです」(熊本さん)
そもそも、原発は国策によって進められてきた。現在行われている数々の原発事故の責任を問う裁判では、「東電や国が対策を怠っていなければ原発事故を防ぐことができた」という判決も多く出ている。
これ以上、被害者の生活を奪うことがあってはならない。