■想定外の需要の急増で、患者に回らないケースも
新型コロナ変異株も世界中で確認されており、一気に物流が止まってしまう危険性も否定はできない。この流通の問題以外にもコロナ禍の薬品不足の原因として指摘されている問題があるという。それは“思わぬ需要の急増”だ。前回の取材で、ある薬剤師は、こう指摘していた。
「吸入薬のオルベスコ(一般名はシクレソニド吸入剤)のように、“コロナに有効”という情報が流れたことで、一部の医療機関が在庫を保持してしまい、本来使用していた、ぜん息の患者さんのもとに回らなくなってしまったというケースもあります」
この点について、東京都内で薬局を経営する別の薬剤師Aさんにも聞いた。
「昨年にコロナ治療薬候補として話題になったオルベスコは、引き続き品薄で入手できない状況が続いています。同じような理由で疥癬(皮膚病の一種)の薬である『ストロメクトール(一般名・イベルメクチン)』も一時的に品薄になりました。同様に『カモスタットメシル酸塩』も入手困難です」
昨年9月、北里大学病院で軽症から中等症の新型コロナウイルス感染症を対象に、ストロメクトールの医師主導治験を開始すると発表されたのだ。
需要が高まっているとはいえ製薬会社も苦慮しているようだ。ストロメクトールを扱っているマルホ株式会社の広報担当者は、本誌に対し次のように回答している。
《昨年来より「ストロメクトール錠」の需要が急増したことから、現在、適応を有する「疥癬」や「腸管糞線虫症」の患者さんに、欠品を避け、適切にお届けするために、予防的措置として出荷調整を行っています。
コロナ禍という、特殊な状況下での切実な声に対して、お応えできないことを心苦しく感じていますが、販売会社としましては、すでに適応症を有する皆さん(疥癬、腸管糞線中症)への供給を維持するため、現在は適応外である新型コロナウイルス感染症の使用に関して、出荷調整をせざるを得ない状況になっております》
沢井製薬が出荷調整に踏み切ったカモスタットについて前出の医療ジャーナリストは、 「ジェネリック医薬品で、先発医薬品のフオイパンがコロナ治療薬候補として臨床試験されていることもあり、需要が急増しました。すでに“コロナ予防薬”として服用している医師たちもいると聞いています」