実家の温もりを――。シンママたちへ居場所作った「普通の主婦」
画像を見る 「じじっか」は多くの親子でにぎわっている

 

■最前線を走り続け、脳幹出血に。駆けつけた女性たちとウマウを発足した

 

離婚と前後して、佐藤さんは物流企業の事務員として、パート勤めを始めた。

 

「お金をもらえて『ありがとう、助かったよ』と言ってもらえる。必要とされ居場所を見つけられた気がして、それが生きる気力にも。少しずつ健康も取り戻しました」 職場には、ひとり親家庭のお母さんたちが何人も働いていた。

 

「お話を聞くうちに、お母さんたちの大変さを知りました。生真面目に働くお母さんたちなのに、人並みな暮らしができないなんて、世の中、間違ってると思いました。ひとり親のお母さんたちは、ギリギリの生活のなか、正確な情報が得られず、世間が抱く勝手なイメージで損もしている。だったら、私が彼女たちの就労のお世話をしたい、そう思ったんです」

 

02年夏、佐藤さんは周囲の反対を押し切り、ひとり親家庭の母親向けの人材派遣会社「キャリア・リード」を設立。資金は、親子でいつか旅行しようとコツコツためた郵便貯金をあてた。

 

しかし、決して順風な船出ではなかった。

 

「まず事務所を借りるのもたいへん。資金は乏しいし。車のないお母さんたちが多いから、交通の便のいい場所に借りたい。でも、そういう場所の物件は家賃が高くて」

 

ある日、飛び込んだ不動産会社。担当者と佐藤さんのやりとりを奥で聞いていた会長が、彼女の思いに応えてくれた。

 

「私を呼んで『机2つしか入らん、狭いとこでもいい?』って。会長さん、わざわざ自分の駐車場をつぶして、小さな事務所を建ててくれたんです。『そのかわり、5年は諦めず続けることが条件だ』と」

 

その言葉を胸に、佐藤さんは営業に奔走。靴を何足も履きつぶしながら、久留米の町を歩いた。その過程では不愉快な思いもした。

 

「『女のお前が社長?』って、渡した名刺をゴミ箱に捨てられたこともあります。あと、『再婚もできず働かなきゃならないなんて、かわいそうね』って言われたことも」

 

ひどい仕打ちにも、佐藤さんは歯を食いしばって我慢した。

 

「悔しかった。でも、できたばかりの小さな、先があるかもわからん会社に登録してくれたお母さんたちが、仕事を待ってた。彼女たちのため、その一心でした」

 

やがて、会社は軌道に乗った。社員も増え、事務所も5年の約束を待たず、あっという間に手狭になり転居。いっぽう、仕事を得たお母さんたちだが、悩みが尽きることはない。とくに、子供の教育費を捻出する余裕がない、という声が多かった。

 

そこで12年、生活困窮家庭の子供の学習支援と、子ども食堂の機能を併せ持つNPO「わたしと僕の夢」が誕生する。

 

「最初は会社で放課後、社員が子供2人に教えるところから始まったのが、いま、NPOに在籍する子供は120人を超えました」

 

このころになると、地域でひとり親支援のパイオニア的な活動を続ける佐藤さんの周囲には、同じように地元で社会活動にいそしむ女性たちが集まってきていた。14年には、彼女たちとともに「ママをひとりにしない母子家庭団体・SWAK」というサークルも立ち上げた。ところが。

 

「会社もNPOもサークルもって走り回ってたときに、最終的に私、倒れてしまうんですよ」

 

それが、いまから4年ほど前。

 

「言葉が出づらくなって。頭がものすごく痛くて。病院に駆け込んで、MRI検査を受けたんです」

 

検査結果は、あろうことか脳幹出血。「もう持たない、すぐに家族を呼んで」と医師から告げられたところで、意識を失ってしまった。

 

「もうろうとするなか、もちろん自分の子供たちや両親に申し訳ない気持ちになりました。でも、会社やNPO、サークル活動で関わってきたお母さんたち、子供たちの顔も浮かんできて。いま、皆を放り出して、逝くことはできないって」

 

佐藤さんは踏みとどまった。そして、ふたたび目を開くと、家族以外は面会できないはずの病室に、見舞客がいた。このときのことを、佐藤さんはじつにうれしそうに述懐する。

 

「それが、SWAKの仲間、いま、ウマウの副代表をしている(中村)路子や、(樋口)由恵たちだったんです。もう、私、びっくりしてね。なんでも、私がもう死ぬと思って『家族です、親戚です』って、病院にうそまでついて、駆けつけてくれたんですって(笑)」

 

SWAKの活動はその後、19年に発足したウマウに移行。回復した佐藤さんが代表を務めることに。広報担当・樋口さんが言う。

 

「でも、ここでは誰も『代表』なんて呼びません。私は『家族です』って見舞いに行ったときから『ゆりネエ』って呼んでる。実際、頼りになるお姉ちゃんって感じです」

 

ひょうたんから駒が飛び出した。佐藤さん、そして彼女を慕うお母さんたちはいま、じじっかに集う、ひとつの大きな家族になったのだ――。

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