■「どうせ椿は心臓病だし」。投げやりな態度は院内学級の子供たちと出会うことで変わった
「おなかにたまる水と、摂取する水分量の管理には、肉体的にはもちろん、精神的にも相当、椿はしんどい思いをしたと思います」
水がいっぱいたまった椿さんのおなかは、まるで臨月の妊婦のように膨らみ、自分の足元が死角になってしまうほどだったという。
「腹水を抜く治療をするんですが、水がたまるスピードがどんどん速くなって。当初は1週間で1,500ccほどだったのが、最大4日間で3,400ccにも。水がたまる過程で体内循環のバランスが崩れ、頭痛や吐き気も伴います。パンパンにたまると体の内側から細い針で刺されるような痛みもあったようで、椿は泣いて悶える夜が何度もありました」
飲んだ量だけ、漏れ出てたまる腹水も増えるため、椿さんには厳しい水分摂取量の管理が求められた。さらに、心臓の負担と、腹水の貯留を和らげる複数の利尿剤を服用するようになっていた。
「当初は1日1,000ccまで飲んでいいということでしたが。追加された利尿剤というのが、先生いわく『砂漠にいるぐらい喉が渇く』そうで。椿は私たちに隠れて水を飲むようになっていきました」
小学5年生の冬、椿さんは医師から最初の余命宣告を受ける。やはり、難治性腹水が原因だった。
幸い、このときは点滴によるステロイド投与やカテーテルなど、医師たちの懸命の治療でなんとか命をつなぐことができた。その後も、たまり続ける腹水を定期的に抜いては、漏出した必要な成分を補充するという、終わりのない治療が続いた。入院生活に疲れてしまったのか、椿さんはこのころ、自暴自棄になっていた。
「どうせ椿は心臓病だし。何もできないし」
そんな言葉を繰り返す娘に、みやびさんはこう言葉をかけた。
「無理することはないけど、何もかもできないわけじゃないでしょ。一緒に頑張ろうよ」
それでも、投げやりな態度を崩さない娘に、母はある提案をした。
「主治医の先生にも勧められて『院内学級に行ってみない?』と誘ったんです。何回か誘っても断るので、体調のいい日を選んで無理やり連れていって(苦笑)」
余命宣告から奇跡的に回復した18年の1月。初めての“教室”で、椿さんが目にしたのは、自分と同じ、闘病中の子供たちの姿だった。
「白血病の子が何人かいて。やはり頭髪がないんですね。それに、見たこともないような特殊な機器を装着した子も。ひと目で、しんどさがわかる子たちが、それでも楽しそうに勉強したり遊んだりしている。そして、その子たちが、とても優しく椿を受け入れてくれて。それで、彼女の中で何かが変わったんです。『自分だけじゃないんだ』と心強く思ったんでしょうね。院内学級に行くようになって、また活力がみなぎってくるのが、見ていてもわかりました。生き生きとした椿が戻ってきた、そう思えました」
気力は戻ったものの、腹水はたまり続け、喉の渇きは一向に治まらなかった。そして、症状を抱えたまま、椿さんは中学生になった。