■年金が夫200万円、妻78万円の場合繰り下げるとどうなる?
それでは、額面と手取りでは実際にどれくらいの差があるのだろうか? 今回は東京都世田谷区に住む「夫200万円、妻78万円」と厚生労働省のモデル世帯に近い同年齢の夫婦を想定し、65歳から年金を受け取る場合と、5年、10年と繰り下げたケースでの手取り額を深田さんに試算してもらった。
「65歳から年金を年200万円受け取る夫の場合、介護保険料は4万8,000円で、国民健康保険料は9万7,000円(ともに年間、端数切り捨て)に。5年繰り下げて、受給額が284万円に増えると、介護保険料は9万3,000円、国民健康保険料は22万9,000円に増えて、手取りの増額率は額面の増額率より大幅に低くなります。一方、基礎年金だけの妻の場合は、元の金額が少ないため、年金額が増えても社会保険料や税の負担はそれほど大きくなりません。手取りでも額面と同程度の増額効果を得ることができます」
何歳まで受給すれば、65歳から受給した場合の年金の総額を超えるかという「損益分岐年齢」も額面と手取りでは違ってくる。
額面ベースなら、70歳から受給すると81歳11カ月、75歳から受給すると86歳11カ月で、65歳から受給したときよりも受け取る年金総額が大きくなる。
「年金200万円の夫の場合、手取りベースの損益分岐年齢は、70歳から受給した場合85歳6カ月、75歳からなら89歳8カ月に後ろ倒しとなります」
一方、年金78万円の妻の場合、手取りベースの損益分岐年齢は5年繰り下げで82歳、10年でも87歳。額面と比べても差はわずかだ。
厚生労働省の「令和2年度の簡易生命表」によると、60歳まで生きた男性の平均寿命は84.21歳、女性は89.46歳。年収200万円前後の男性の場合、年金の受給開始を70歳や75歳に繰り下げても、元が取れる可能性は女性ほど高くないことは頭に入れておいたほうがよさそうだ。