■生きて再審無罪を勝ち取る第3号はアヤ子さんだと信じる
京都市伏見区にある駅から徒歩数分の場所に、鴨志田さんの自宅があった。
「学生さんが住むような7畳一間ですよ」と、笑う。駐車場込みで家賃7万円。とはいえキッチンにはバーミキュラの鍋やミル付のコーヒーメーカー。執務デスクにはバカラグラスがしまわれている。 「デスクは、弁護士仲間やお客さまが来たら、即座にバーカウンターへと変わります(笑)」
鴨志田さんは昨春、拠点も京都弁護士会に移した。Kollect京都法律事務所に所属し、息子と同年代の若い弁護士たちと机を並べている。鹿児島の6LDKの自宅を手放し、還暦を目前に、京都で人生の再スタートを切った。
4月からは、龍谷大学大学院修士課程で、講義を持つ。
「京都周辺は、再審事件に力を入れている土地柄です。隣の滋賀県は、湖東記念病院事件という、近年、再審無罪を勝ち取った事件があります。その弁護団は京都の弁護士が多数加わっていることも移籍の動機になっています」
昨年10月、大腸がんで闘病していた夫・安博さんを亡くした。
「最後の2カ月は鹿児島に戻って息子夫婦と3人でタッグを組み、24時間付き添いました。最期は自宅のリビングで、眠るように息を引き取りました。彼の命を縮めたのは私。彼は必ず私を前に出してくれる人でした」
自分の仕事をなげうって、妻を支えた安博さんの思いに報いるためにも、鴨志田さんは前を向く。
彼女は、湖東記念病院事件で再審無罪を勝ち取った西山美香さんが、国と滋賀県を相手に起こした国家賠償訴訟の弁護にも加わる。西山さんは、生きて、再審無罪を勝ち取った女性第2号だ。
「西山さんは『第3号はアヤ子さん』と言ってくれています。私も勝ち切らなければと思います」
大崎事件の第四次再審請求審は1月28日、審理が終結した。あとは再審決定を待つのみだ。
「アヤ子さんはまもなく95歳。彼女の命があるうちに、何としても無罪判決を勝ち取らなければ!」
その瞳に、決してくじけぬ闘志の炎が燃えていた――。
(撮影:永野一晃/高野広美)