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「個人金融資産やGPIFなどの長期運用資金がベンチャーキャピタルやスタートアップに循環する流れを作っていきます」

 

7月15日に開催された日本ベンチャーキャピタル協会の総会で、岸田首相はこう語った。日本の年金の積立金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、ベンチャー企業への投資を開始する。まずは、ベンチャーキャピタル(ベンチャー企業を専門に投資をしている会社)を通じて、数十億円の規模になるという。

 

GPIFは、厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う独立行政法人で、年金基金のなかでは世界最大の資産を持つ。

 

現在、公的年金は現役世代の払う保険料を、高齢者に分配する“賦課方式”を取っているが、少子高齢化がより進むと、現役世代の負担が大きくなりすぎてしまう。そこで、将来的には積立金を少しずつ取り崩して制度を維持する予定になっている。GPIFはそのための積立金を運用し、少しでも増やすという役割がある。

 

そんなGPIFの“新たな冒険”。年金博士こと社会保険労務士の北村庄吾さんは懐疑的だ。

 

「“日本で起業家を育てたい”という政策は理解できますが、GPIFの運用資産は大事な年金資金です。時の政権に合わせて自由な使い道をできる性質のものではないと思います。国民の理解を得られるのでしょうか」

 

『202X 金融資産消滅』の著書もある、野村投信(現野村アセットマネジメント)の元ファンドマネージャー・近藤駿介さんも同じ意見だ。

 

「ベンチャー企業は金融業界では“せんみつ”といわれています。千のうち3つしか成功しないという意味。当然、投資した会社がつぶれて株の価値がゼロになることだってありえます。年金加入者が若く、長期的な運用をするなら、リスクの高い分野で投資するというのも考えられます。しかし、団塊の世代が後期高齢者を迎えるいま、年金を確実に給付しなければならない。本来は、国債中心の安全な運用がセオリーです。あえてベンチャーへ投資を始める理由が、見あたりません」

 

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