政府は今月18日、国民年金の保険料納付期間を、これまでの40年間から5年延長して45年間とする案を議論する方針を固めた。これが実現すれば、20歳から始まる納付の対象者は現行の「60歳になるまで」から「65歳になるまで」に広がることに。
厚生労働相の諮問機関である社会保障審議会は、今月中に議論に着手、’25年には国会での改正法案提出を目指す、としている。年金制度に詳しい社会保険労務士の井戸美枝さんが解説する。
「国政選挙がしばらく行われないいまのうちに制度を変えてしまうのが目的という報道も出ていますが、昨年末に厚生労働省から納付期間を45年にしたケースでのシミュレーションが出ていますので、けっして降って湧いたような話ではありません。しかし、60歳以降に収入が少なくなる人は保険料が支払えず、免除申請をして40年間の納付で受け取るというケースも出てくるでしょう」
現在は保険料が月額で1万6千590円なので、1年間で19万9千80円、5年では99万5千400円。負担増はトータルで約100万円にもなる。厚生年金加入の会社員であれば企業の雇用延長などで65歳、さらに70歳まで働く人が増えていて、負担は変わらない。一方、60歳で完全リタイアした人やその妻、自営業者は収入が限られているので、負担は小さくない。
現行の国民年金の受給額(老齢基礎年金)は、40年間フルに納めたケースで月額6万4千816円(年77万7千800円)。65歳から受け取りを開始すると、累積受給額が納付した保険料を上回る「損益分岐点」は、10年と3カ月。75歳3カ月時点で元が取れる計算だ。今後、負担が増すことになれば、のちに得られるリターンは大きくなると考えてよいのだろうか。
「とあるニュース番組で『受給額が増えることはない』とコメンテーターが発言していましたが、シミュレーションが出ている以上、支払額だけ増えて、受給額は現行のまま、ということは考えにくいです。支払った保険料はそのぶん現行の受給額に上乗せされて支払われる形になるでしょう。国民年金から老齢基礎年金が支給されますが、基礎年金には『国庫負担』という国の税金が2分の1含まれています。受給額はこの国庫負担分の有無によって異なってきます」(井戸さん・以下同)
保険料を45年間納めると、納付総額は895万8千600円。それによって受け取ることができる年金の額は、井戸さんの試算によると次のとおり。
「税金が投入されないケースでは、月額約4千50円増の6万8千866円になります。65歳から受給をスタートした場合、10年10カ月を超えたところで同じく元が取れる計算です」
国庫負担分が現行どおり投入される場合は、受給額が月額約8千100円増。すると、損益分岐点は10年3カ月となる。
「国庫負担分が入るか入らないかはこれからの議論次第ですが、入った場合を想定すると、長生きした場合における受給総額の差は歴然です。女性の平均寿命である87・57歳を前にした85歳の時点でみても、受給総額は現行制度で1千555万6千円。改正後は1千750万円になります」
もちろん、前出の「損益分岐点」を前に亡くなってしまうと、トータルでは“損”することになってしまう。健康に留意することがより求められるようになるとも考えられるだろう。ここ数年で目まぐるしく変わる、60代以降で「払うお金」と「もらえるお金」。制度の変更がもたらす自分の老後資金への影響を、きちんと把握しておこう。