「コロナ感染や濃厚接触で100人近い職員が出勤停止中です。第7波まではなんとか乗り切ってきましたが、年末年始でさらに感染者が増えると、さすがに難しい。当院のセンター長は『戦争に近い』と頭を抱えています」
そう明かすのは、自治医科大学附属病院救急救命センター(栃木県)副センター長の米川力さん。
「つい先日は、約180キロ離れた千葉県からも受け入れ要請がありました。また、ケガをして運び込まれた病院で陽性と判明して受け入れ拒否され、隣の茨城県から当院に運び込まれた方もいます。その方は受け入れ先が見つからず、5時間も救急車で待機していたそうです」(米川さん)
こうした窮状は栃木県のみならず全国に及んでいる。たとえば12月22日、東京都は「医療提供体制がひっ迫している」として、医療提供体制の警戒度を最も深刻なレベルに引き上げているのだ。
さらに、この第8波では、茨城県や長野県などでコロナによる1日当たりの死者数が過去最多に。感染者数がこれまででもっとも多くなっている自治体もある。
このような惨状の中、全国各地の医療従事者から「第8波がいちばんひどい」「これ以上感染が拡大したら県民の命が守れない」といった悲鳴が止まらない。
盛岡赤十字病院の院長、久保直彦さんも、次のように懸念を示す。
「第8波は7波以上に高齢のコロナ患者が増加しているうえ、冬場は、脳卒中や心臓病の患者も増え人手はより必要に。しかし、当院ではここ数週間、常に約1割の看護師が出勤停止の状態です。これまでは近隣の医療機関同士で連携しなんとか受け入れてきましたが、今後は救えるはずの命が救えなくなる可能性があります」
同じ岩手県にある岩手医科大学付属病院では12月、がん治療なども含む、周産期以外のすべての手術が一時ストップするという事態に陥った。
《国・自治体に与えられた権限をフル活用、病床・医療人材の確保を徹底します》(岸田文雄政策集より)
総裁選のコロナ対策に関する公約で、このように「医療難民ゼロ」を掲げていた岸田文雄首相(65)。しかし、それから1年以上がたった現在、起こっているのは「医療難民」があふれる事態。その理由を、国立病院機構近畿中央呼吸器センターでコロナ対応に当たる呼吸器内科医の倉原優さんが語る。
「病床がひっ迫する一因は、これまで以上に高齢者が感染していることにあります。東京都のデータでは、入院患者の過半数が80歳以上です」
同院に入院するコロナ患者も、「第8波になってから9割がほぼ寝たきりの高齢者」だという。
「そうなると、オムツ交換や食事の介助、体位変換など、付きっきりの介助が必要です。60床を確保していたとして、自力で歩ける人で60床埋まっているより、寝たきりの人で30床埋まっているほうが看護師さんの負担は大きくなります。そのため、確保した病床数の分を受け入れることが難しい場合があるのです」(倉原さん)
さらに、高齢者の場合なかなか“退院”できないことも問題だ。
「介護施設では吸痰など医療行為が制限される場合も多く、退院のめどが立ちづらい。本来は、身体機能が落ちた高齢者を入院させる後方支援病院が必要ですが、コロナ直後ということもあって受け皿としては少ない。そのため、退院させたくてもさせられない状況が続いています。こうしたところに公的資金を入れてもらいたいのですが……」(倉原さん)