手術中止、救急搬送5時間待ち…コロナ医療ひっ迫が第8波でも起きてしまう理由
画像を見る 自民党総裁選で「医療難民0」を掲げる岸田首相(写真:共同通信)

 

■クラスター発生件数も過去最多に

 

前出の政策集には《国が主導して、野戦病院等の臨時の医療施設の開設や大規模宿泊施設の借上げを実施》と書かれていた。しかし、実際にやったことは、コロナ対策費を防衛費に回すことだった。12月21日には、新型コロナ対策の剰余金746億円を、防衛費の財源に充てるため、前倒しで国庫返納することが明らかになったのだ。

 

その結果、コロナに罹患しても入院できる高齢者はほんの一握りという状態に。第8波の高齢者施設でのクラスター発生数は、第7波を超えて過去最多となってしまっている。

 

名古屋市内のクリニックに勤務する訪問看護師の増田裕子さん(仮名)が、介護現場の惨状を訴える。

 

「私が通う介護施設では、12月初旬にクラスターが起き、入所者30人のうち29人が陽性に。職員もほぼ全員が感染してしまったので、陰性者が休んで陽性者が出勤し、“陽・陽介護”する状態でした」

 

感染が拡大した背景には、こんな問題があったという。

 

「最初に発熱者が出たときに、市から配布されている抗原検査キットで調べたら陰性だったんです。抗原検査キットの感度はメーカーによって違うと聞いていたので、翌日、クリニックから持参した別の抗原検査キットで検査したところ、案の定、陽性反応が。その時点で全員がPCR検査を受けて陽性者を隔離できたらよかったのですが、症状のない方のPCR検査はしないという医師会の方針でできませんでした」(増田さん)

 

そうこうしているうちに、あっという間に感染が拡大した。入院できたのは陽性者29人のうち8人だけだったという。

 

国立遺伝学研究所教授で世界的な分子生物学者の川上浩一さん(理学博士)はこう指摘する。

 

「ウイルス量が十分増えていない感染初期や、療養解除の時期の場合、抗原検査では半分くらい見逃してしまうことも。リスクの高い高齢者施設や病院では、抗原検査より感度の高いPCR検査が望ましい。政府や自治体はそうした体制を作っておくべきでした」

 

前出の米川さんも、現状の問題点を訴える。

 

「これまでは、感染者が増えたら政府が行動制限を呼びかけていましたが、今はそうではない。ですから感染者が増加しています。

 

さらに年末・年始の人流増加に伴いケガ人も増えて、より医療がひっ迫してしまうんです。一人一人に基本的な感染対策をお願いするしかありません」

 

このままでは、’23年もコロナ“禍”からは抜け出せないだろう。

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