■孫の顔を見ることには執着しない。自分の介護で子供の人生を奪ってはならないと誓う
「母親の私とレノのツーショット写真は、ほとんどないんです。これはイスラムの文化が影響していると思います。
わが家の中も、両国の文化が混在。夫の母のレシピで中東の料理も作りますし、日本の味の代表は鍋でしょうか。ただし、イカ・タコ類は絶対に使いません。
レノが、幼いころから香水をつけるのも父親の影響。今では同じ柑橘系の香りが、わが家の男たちの象徴のようになっています」
レノ君は、日本の大学への入学はかなわなかったが、昨春からアメリカのオンライン大学でMBA取得を目指している。
国際ビジネスマンに憧れているのだという。
影山さん自身は、今後の生活のなかで厳守したいことがある。
「レノは、大学を出たら日本の大学院で学ぶのか就職か。場所は日本か親族のいるオランダ、イギリス、ドバイなんてことも(笑)。
ただ、そのとき、母親の私がやってはならないことは、自分の介護で子供の人生を奪うこと。
私自身、祖母での体験も大きいですが、万一、認知症になっても子供に迷惑をかけないよう、経済面だけでも自立していたいと、今も毎月15万円の保険料を払い続けています。まあ、認知症にならないためのお守り代わりですね」
こちらも20年以上にわたり、超がつく遠距離恋愛中の夫との関係を尋ねると、
「空気のような存在と言うわりには、今もほぼ毎日スカイプか電話で話してます。互いに名前で呼び合うのも変わりません。実は私たち夫婦は体格も同じなので(笑)、会えば洋服や靴まで着回すのも20年前と同じ。彼とは、好きなカラーもずっと一緒なんです」
周囲からはよく尋ねられるそうだが、孫の顔を見ることには、それほどの執着はないという。
「これからは、もう子供にしがみつく生活はしません。
まずは、コロナ明けと同時に、若いころに中断していたスペイン語の勉強を再開するつもり。大使館のスペイン語講座に電車で通うためにも、早く杖なしで歩けるようにならないと」
わが子と積み重ねた20年間の日々の思い出と感謝を胸に、母は80代にして、人生の第2ラウンドへ力強い一歩を踏み出した。