■病気であってもその人らしく生きるそのための選択肢の一つが旅行
終末期や難病など病気で諦めていた人の旅行をかなえるための会社、トラベルドクター株式会社を伊藤さんが設立したのは、’20年12月24日のこと。
終末期の患者を多く診ていた研修医時代から抱いていた夢だったが、同僚や先輩に話しても「伊藤がまた妄想をしゃべってる」と笑われるのがオチだったという。
「でも、殺風景な病室の天井を見上げながら人生の最期を過ごさざるをえないって、自分なら耐えられない。患者さんたちがその人らしく生きるための医療があってもいいと思ったんです。
その一つが旅行です。実現すれば絶対に誰かの役に立つ。でも多くの面で生半可にできることではないし、自分の人生を懸けるしかないと踏ん切りをつけたんです」
’20年12月、トラベルドクター株式会社を設立。コロナ禍で活動が制限されるなか、まずは広く事業内容を知ってもらうために、ボランティアで行うプロジェクト「たびかな(旅叶)」を同時に立ち上げた。医療、介護、旅行関係などの有志が集まり、旅行資金はクラウドファンディングで調達した386万円。
こうして数々の患者の願いをかなえるための活動がスタートした。
これまで「たびかな」では15組の願いをかなえてきた。
「でも裏を返せば、100件の相談を受けていますから、85組はかなえられていないんです」
実現できない壁はふたつある。まず、家族・主治医というキーパーソンのうち誰かが反対すれば難しい。
そしてもうひとつが時間の壁だ。
「現地調査や宿の手配や交渉、交通機関や地元病院との連携、スタッフの人員配置、福祉用具の用意など旅行の準備はすっかり整っているのに、直前にご本人が入院してしまったり、亡くなられたり……。相談があと一日早ければ、というのは何度も経験しています」