■人生の最期まで幸せに生きられるというメッセージを世界に発信したい
’22年5月から、ボランティアプロジェクトの「たびかな」とは別に、トラベルドクター社としての事業を本格的に開始した。代表取締役の伊藤さん以下、社員は看護師1人、理学療法士1人。これまで50件の相談を受け、15組の旅行をかなえてきた。
伊藤さんが提案するのは“5番目の冠婚葬祭”だ。
「冠婚、つまり成人式と結婚式のあとが、一気に葬式なんですよね。病気になったときでも、大きなイベントがあっていいじゃないかって。医師になって、人はやりたいことがあっても忙しさなどにかまけて後回しにすることが多いと感じています。たとえば親孝行のための旅行というイベントなら、日常では口にできなかった『ごめんね』とか『ありがとう』も言える。
亡くなってから後悔するような形で豪華な花を飾るより、生きているうちに伝えたほうがいいと思うんです」
伊藤さんは、大型ワゴン車を福祉車両に改造し、特注のストレッチャーや医療機器も搭載した「トラベルドクターカー」を購入している。人生最期の旅路を歩む人たちへの思いのこもった車だ。
「広々とした8人乗りです。移動手段としてだけでなく、ストレッチャーを操作すれば外の景色も楽しめるし、好きな音楽をかけて家族で食事もできる。もうドライブですね(笑)」
この車を運転するために、教習所通いをして普通二種免許を取得したというから徹底している。
「トラベルドクターのテーマは、生き方なんです。人生の最期まで幸せに生きられるというメッセージを世界に発信したいんですよね」
取材の前日は大阪の大学で講演。取材後はオンラインでのコンサルティング業務と伊藤さんは多忙だ。けれども柔和な顔に疲れは見えず、どこまでも颯爽としている。