■「届いてほしい人に届かない」注意喚起の陰ではジレンマも……
夏とはいえ、標高が100m上がるごとに気温は約0.6度下がると言われている富士山。御来光を見たい気持ちはわかるが、命の安全がなにより大事だろう。担当者は「まず行かないでほしい、というのが最初のお願いとしてあります」と前置きした上で、軽装で“弾丸登山”をする登山者に警鐘を鳴らす。
「SNSで紹介したような簡易的なビニール合羽では、寒さで硬化するとすぐに破れてしまい、耐久性がほとんどありません。さらに風雨が下から吹き上げてくると、内側がびしょびしょになってしまいます。きちんとした登山用のレインジャケットは防水機能だけでなく、内側の水蒸気を外側に逃す透湿性に優れています。
ビニール合羽も雨を通しませんが、内側の汗もまったく逃がさないので蒸れてしまう。汗が冷えることで、低体温症になってしまう恐れがあるのです。非常に風の強い富士山では、『濡れ』と『風』がセットになるのが一番危険です」
富士山を登るには、登山向けの上下が分かれたレインジャケットとレインパンツが必須だという。
「きちんとしたものであれば、雨が降っていなくても防寒着となります。フリースなども意外と風を通してしまうので、一番上には風をシャットアウトするものを着用した方が良いでしょう。また、綿など一度濡れると乾くまでに時間がかかってしまう素材の衣服は、体を冷やす原因になりかねません。低体温症にならないよう、化繊のものを選ぶなど命を守る工夫をしていただきたいですね」
いっぽう注意喚起の発信には、“ジレンマ”もあるという。
「まだ日本語で発信した段階ですので、外国人観光客の方には発信できていない状況です。また日本人の方でも、私たちの投稿をご覧になる人というのは、日頃から登山に興味があってアンテナを張っている人たちではないかと思います。ですがビニール合羽のような軽装で富士山を登りに来る人たちは、服装などについてあまり調べていない方が多い印象です。そういった人たちに届いてほしいと願っていますが、届いていない状況にジレンマを感じます。外国人観光客に向けて、これから英語表記でもアナウンスする予定です」
最後に、担当者は登山者に向けてこう思いを語る。
「天気を選んだり、装備をきっちりしていただければ、安全や快適度は格段に上がります。せっかく富士山を訪れていただくなら、登山の体験を良いものにしていただきたい。万が一遭難してしまうと、山小屋を運営される方々も救助に手を取られてしまい、本来の業務に支障をきたしてしまいます。なかには病気による心肺停止や事故などで、本当に救助が必要な人もいます。そちらに手が回らなくなることもあるので、避けられることは事前にご本人の責任できちんと準備をしていただくことが大切でしょう。登山をするご本人だけでなく、富士山にかかわる全ての人々のためにもなると思います」
楽しい登山体験にするためにも、入念な事前準備を心がけたいものだ。