能登地震 復興の過程で懸念される「予備費の“中抜き”」と「“便乗”改憲」
画像を見る 初動が遅いという批判も受けた岸田首相(写真:共同通信)

 

■緊急事態条項がむしろ災害時に逆効果になることも

 

一方で、震災へのこんな“便乗”の懸念がある。

 

「総裁任期中に憲法改正を実現したい思いに変わりはない。今年は条文の具体化を進め、党派を超えた議論を加速していく」

 

地震から3日後の1月4日、年頭記者会見で、改憲への思いを岸田首相はこう語った。SNSなどでは《震災を大義名分にして緊急事態条項を憲法に入れようとしているのでは》などと危惧する声が上がった。

 

“緊急事態条項”とは、大規模な災害や外部からの攻撃、さらには感染症の蔓延など緊急事態が起きた場合、一時的に政府の権限を強める規定のことだ。東京都立大学教授で憲法学者の木村草太さんはこう指摘する。

 

「今回のような大震災が起きると、火事場泥棒的に緊急事態条項を盛り込んだ改憲案が持ち上がります。2016年に熊本地震が起きたときも、菅義偉官房長官(当時)が緊急事態条項の必要性について触れるなど問題になりました」

 

政治部の記者はこう語る。

 

「自民党は、当面の改憲の目的として4項目を挙げていますが、そのうちのひとつが緊急事態条項です。しかし、首相が“緊急事態”を宣言すると、国民はすべて政府の指示に従わねばならず、さまざまな懸念が示されています。

 

たとえば政府が、〈救助活動を妨げる報道やインターネット情報は規制する〉という政令を出せば、情報は遮断され、政府に都合の悪い情報は隠されてしまう恐れもあります。

 

また、緊急時に国会議員の任期を延長できるようにしようという動きもありますが、これが悪用されてしまった場合、 “ずっと緊急時である”とそのときの政権が主張して、権力の座に居座るような事態も懸念されています」

 

前出の木村さんは、「災害対応の中心は自治体であり、中央政府への権限集中が役立つとは考えにくい。日ごろからの自治体の備えが重要」としたうえで、こう指摘する。

 

「災害対策に関心が薄い人が政権を握っている場合、かりに緊急事態条項によって政府に権限を集約しても、むしろ逆効果になる可能性もあります」

 

予算がしっかりと復興のために使われるか、震災を利用した強引な改憲が進められないか、我々が監視していくことが重要だ。

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