■元郵便局員が地道な戸別訪問で対応
四国の高知県は、耐震化率88%と全国平均を上回る。
「東日本大震災などの被害状況を見て、南海トラフ地震の被害想定をし、市町村と連携して耐震化を進めてきました」(住宅課)
高知県沿岸部に位置する黒潮町情報防災課の国見知法さんが言う。
「内閣府の中央防災会議が2012年、南海トラフ地震が来た場合に『黒潮町で震度7、津波高34.4m』と公表しました。『津波到達時間も最短2分』と。緊張が走りました」
役場は保育士も含めた全職員が「防災業務」を兼務することに。
「町内61区の集会所に担当職員がつき、避難場所、避難路など、現地を歩いて点検し、整備を急速に進めました。津波高34.4mと想定された地点は、逃げることが可能な避難路と避難場所があることが確認できています」
津波の避難タワーも6基が建設され、「全国一高い22mのタワーがあります」と国見さん。
だが耐震改修工事の促進には、苦労があったと振り返る。
「耐震診断は2004年から、耐震工事は2006年から始まっていましたが、数年間は、工事まで進んだのが10件もありませんでした。そこで2012年から診断を無料とし、設計(最大30万円補助)、工事(最大125万円補助)と進めるように、町の全戸に戸別訪問を始めたんです」
戸別訪問に町が採用した臨時職員は、地元の元郵便局員だった。
「地域の道はぜんぶ把握しているし、どこに誰が住んでいるかもわかっている。5年間で全戸を3回訪問しました」
そのような地道な職員の努力で、2013年には診断数27件だったのが、2014年には338件と10倍以上に拡大。工事件数も2019年には177件と最大になった。
他方で耐震化率70%、伸び率も5ポイントと全国最下位の島根県の担当者は、取材に次のように回答した。
「本県はこれまで県民への耐震に関する普及啓発、耐震改修費用への補助を行うなど、耐震化促進の取り組みを進めており、取り組みが遅いとの認識は持っていません。
しかし県内は古い木造住宅が多数存在し、また所有者の高齢化もあり、このことが全国に比べ耐震化率が低い一因と捉えています」
■震災から月日がたち防災意識の薄れが
前述したように2016年の熊本地震はまだ記憶に新しい。耐震化率89・1%と全国平均を上回る熊本県だが、建築課担当者は、「熊本地震から8年近くがたち、防災意識が薄れてきている感覚があります」と危機感を募らせる。熊本市住宅政策課の担当者は
「熊本地震直後は耐震診断、耐震改修ともに多かったんです。しかし2022年は耐震診断(負担額5千500円)144戸に対して、耐震改修工事(補助金額の上限100万円)に進んだのが68戸でした。
DMを送るなどをしていますが、事業説明会も予定しています。耐震化事業を知ってほしいですね」
このように地域差はあるが全国で耐震化の取り組みがされている。
前出の国崎さんは「戸建て住宅は、マンションのような定期修繕がなく、傷んで初めて気づき、補修する。それでは遅い」と指摘。
「近年は温暖化の影響で強い雨風にさらされたり、紫外線などで塗装が劣化したりする。
経年劣化のスピードも速くなっているのだと意識して、自治体の耐震診断、耐震改修の制度を調べ、積極的に利用すべきです」
まずは、自治体の耐震化担当部署に問い合わせてみよう。