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「外国人観光客の急増で、小袖小路は、騒音や住宅地などへの立ち入りが後を絶たず、近隣住民からの苦情が相次ぎました。

 

以前から、舞妓さんを追いかけて無断で撮影したり、取り囲んで動けなくしたりするトラブルも。住民が注意をしても“なぜ写真を撮ったらダメなんだ”という表情をしながら無視されるケースがほとんど。

 

そのため、迷惑行為を抑止する対策として、5月29日から小袖小路での“観光客の写真撮影や進入禁止。違反した場合は罰金1万円”の看板を設置しました」

 

こう語るのは、小袖小路を管理する祇園町南側地区協議会の幹事・太田磯一さん。

 

小袖小路は、京都・祇園のメインストリート「花見小路」に面した静かな私道だったが、コロナ禍終息後、外国人観光客が団体ツアーで来るようになった。

 

太田さんによると、罰金に法的拘束力はないが、地元の人たちの生活を守ることを第一に考えた苦渋の決断だったという。

 

インバウンド需要の回復と円安の影響で外国人観光客が増加。多くは節度を持って日本観光を楽しんでいるが、一部の外国人の“呆れた行為”が目立つ。

 

こんなオーバーツーリズム(観光公害)の問題が、いま全国各地で起きている。

 

大手旅行代理店のJTBは、2024年の訪日外国人旅行者数が過去最高の3千310万人になると予想している。

 

オーバーツーリズムの問題は、京都のような有名観光スポットだけで起きているわけではない。

 

山梨県の富士河口湖町では、コンビニエンスストアの屋根越しに富士山が写ることから、記念撮影に訪れる外国人観光客が殺到。そのため、目隠し幕が設置されたニュースは記憶に新しい。

 

現地周辺では、交通事故の危険性に加え、ゴミの散乱が深刻な問題に。ポイ捨てを注意すると、“ゴミを捨てて何が悪い!”と開き直る外国人旅行客も……。

 

「近年、ガイドブックに載っている有名観光スポットに加え、もともと観光スポットではなかった場所でも交通渋滞、ゴミの投棄、騒音や迷惑行為、そして私有地への侵入といった観光公害が、全国各地でどんどん増えています」

 

そう指摘するのは、オーバーツーリズムの問題に詳しい城西国際大学観光学部の佐滝剛弘教授。

 

背景には、コロナ禍の約3年のステイホーム期間に、世界中の人たちがインターネットやSNSで、写真映えする日本の食文化やスポット、ドラマのロケ地、アニメの舞台となった場所などの情報が広く知られたことが、大きな要因として挙げられる。

 

そして旅行ができるようになってからは円安が重なり、外国人観光客が日本の“聖地”に押しかけているのである。

 

「世界中の誰もがスマホを持つ時代です。誰かが映える写真をアップしたら、それはすぐに世界中に広がります。その場所が観光ガイドブックに載っていようがいまいが、関係ありません。

 

SNSは単に情報収集だけでなく、観光地との向き合い方、向き合った後の発信の仕方など、旅行の形態そのものを変えました。そういう意味では、地球上どこでも観光地になりうる時代なのです」(佐滝さん)

 

日本政府は、2030年に外国人旅行者を年間6千万人にする目標を掲げている。だが、受け入れる側の準備態勢が十分にできていないところに多くの観光客が殺到しているという現実がある。

 

先祖代々、京都の嵐山に住む40代の女性は、自宅庭に外国人観光客が入り込む件数が増え、毎晩、恐怖に怯えているという。

 

「英語で“私有地”と書いた張り紙を入口に貼ったのですが、お構いなしです。ある晩、外が騒がしいので庭を見たら、お酒を飲んで宴会してました。注意すると“公園で酒を飲んで何が悪いんだ!”と逆ギレされ……。母と2人暮らしなので、不安で仕方ありません」

 

■自治体任せではなく国が音頭を取ること

 

北海道の小樽市では、小樽運河や歴史的建造物といった、写真映えするスポットが多くある。

 

それをお目当てに来た多くの外国人観光客が、小樽天狗山ロープウエイに向かう路線バスに列をなし、地元住民が乗車できない事態が頻発している。

 

また、首都高最大のパーキングエリア、横浜市の大黒PAには、クラシックカーや改造された日本車が集まる聖地として世界中からカーマニアが殺到。エリア内は撮影会場化している。

 

すでに深刻化している日本のオーバーツーリズム。打開策は?

 

「問題が起きている地域ごとに、さまざまな施策が始まっています。たとえば、観光客から入場料、宿泊税を徴収する。住民だけではなく、来た人にもお金を負担してもらい、整備等にかかる費用などに充てる。

 

ただ、外国人観光客は、1カ所だけに来るわけではなく、欧米人などは2~3週間日本にいます。行く先々で毎回500円、千円……と、お金を徴収されたら、“日本はウエルカムの国ではないのか”と思われるでしょう。

 

国は観光立国を宣言しているのですから、自治体任せにするのではなく、国が音頭を取るべきです。たとえば、日本に入国する際に一括して入国税のような形で徴収する。そこから問題のある地域に対策費として予算を配分する。このような施策もすぐに検討すべきでは」(佐滝さん)

 

かつて日本人も、海外での迷惑行為を指摘されることがあった。「旅の恥はかき捨て」もいいが、せめて周りには迷惑をかけないように楽しんでほしい。

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