■欧米と比べるとゆるゆるの日本の基準値
日本の食品安全委員会は先月25日、PFASのなかでも毒性の高い“PFOA”と“PFOS”それぞれで、体重1kgあたり20ナノグラムを“耐容一日摂取量”にすると決定した。
耐容一日摂取量とは、ヒトが一生涯にわたって摂取し続けても健康に悪影響がないと推定される1日あたりの“摂取許容量”のこと。
しかし、欧米の摂取許容量は比べものにならないほど厳しい。
「欧州食品安全機関は、“PFOA”と“PFOS”ほか2種類の合計で体重1kgあたり0.63ナノグラムに設定。米環境保護局も、PFOAは0.1ナノグラム/kg、PFOSは0.03ナノグラム/kgに設定しました」(原田さん、以下同)
つまり日本は、欧州の約60倍、米国の約200~600倍も摂取許容量がゆるいことになる。
なぜ、これほど差があるのか。
「この10年でヒトへの調査も多数行われ、健康への影響も小さくないことがわかってきました。
たとえば、子どもにジフテリアや破傷風のワクチンを接種した際、血中PFAS濃度が高い子どもほど抗体がつきにくかった。
また、妊婦のPFAS血中濃度が高いほど、乳児の出生時体重が低下していた、などの調査結果が報告されており、欧米ではこうしたデータを考慮して数値を厳しく見直した。しかし、日本の食品安全委員会は、約20年前の動物実験のみを参考にしています」
加えて日本は、PFASの“発がん性”も無視している。
世界保健機関(WHO)のがん研究機関(IARC)は昨年、PFOAを4段階ある分類のうちもっとも高い“発がん性がある”と決定。
ところが食品安全委員会は、IARCが示した研究結果には、《発がんがあったとするものや、なかったとするものもあり、“一貫性がない”》として、摂取許容量を決定する際の判断材料としなかった。
「食品安全委員会は、ヒトでの結果だけ見て判断していますが、ヒトはみんなが同じ生活習慣を持っているわけではないので、結果にバラつきは生じます。
しかしIARCは、ヒトだけでなく、動物実験での発がん性や、がん発生のメカニズムが明確であるかなど、3つの観点から総合的に評価して“発がん性がある”と結論づけているのです」
つまり、日本は自分たちに都合のいいデータで決めているのだ。
こうした国の姿勢に対し、「多摩地域の有機フッ素化合物汚染を明らかにする会」の代表、根木山幸夫さんは、こう憤る。
「食品安全委員会に対して、〈もっと規制を強化してほしい〉と3,900件あまりのパブリックコメントを集めて提出しましたが、まったく考慮されませんでした。
完全な証明ができないから考慮しないのでは、“第二の水俣”になってしまう。予防原則に立って考えてほしい」
日本と異なり、各国では、飲料水の基準値も厳しくなっている。
「摂取許容量は、あくまで健康影響に配慮した数値。飲料水の基準値は、摂取許容量をもとに、各国が現段階で達成できる数値を定めています」(原田さん、以下同)