■現在55歳の人は88歳まで年金が目減りし続ける
財政検証では、日本経済の状況に応じた複数の“年金の将来予想”が発表されたが、島澤さんが「もっとも現実的なシナリオ」という「過去30年投影ケース」をもとに死別後の妻の将来をみてみよう。
現在55歳の専業主婦の妻と、3歳年上の夫を想定。夫が84歳で亡くなり、妻が82歳から“おひとりさま”になってからの10年間の収支を試算した。
財政検証では40年間厚生年金に加入した会社員の夫と専業主婦の妻というモデル世帯が受給する年金額の、現役男子の平均手取り収入(2024年は月約37万円)に対する割合である「所得代替率」で将来の予想を発表している。2024年のモデル世帯の年金受給額は約22万6000円で、所得代替率は61.2%。
しかし、2050年(夫が84歳、妻が81歳)の所得代替率は52.5%まで低下。現在の水準で計算すると、夫婦の年金額は19万4000円ほどとなっている(以下の年金額はすべて現在の水準にしたもの)。
さらに夫と死別し、妻がおひとりさまとなると、年金額は約11万9000円まで減額されてしまう。ファイナンシャルプランナーで夫婦問題診断士協会代表理事の寺門美和子さんが解説する。
「夫が厚生年金を受給していた場合、死別によって夫の基礎年金がなくなると、夫の遺族厚生年金(比例報酬分の4分の3)が妻の基礎年金にプラスされます」
その後も、マクロ経済スライドによる年金の減額が続き、ようやく下げ止まるのは妻が88歳のとき。年金額は約11万6000円で、翌年以降は横ばいとなる。
2023年の「家計調査」よると、65歳以上の単身無職世帯の平均の支出額は15万7673円。夫と死別した妻は、毎月約4万円、年間40万~50万円も赤字が出ることに。10年間で、赤字額の累計は約486万円にもなる。
未婚や離婚によるおひとりさまの場合、年金額はもっと少なくなる。厚労省の最新の「老齢年金受給者実態調査」によると、未婚女性の年金の平均月額は11万9000円、離婚の場合は8万8600円だ。
それが、2050年時点には、未婚女性の年金は10万2083円と、現状よりも1万6917円減、離婚女性は7万6005円と1万2595円減に。寺門さんが語る。
「自分自身の年金と生活費の差を埋めるために、50代から3つの準備が必要です。(1)できるだけ長く働くこと。(2)公的年金を増やすこと。パートの厚生年金への加入要件が拡大されましたので、調べてください。(3)自分年金を作ることです。働いて得た収入の一部をNISAやiDeCoに回すことも忘れずに」
最晩年に貧困に陥らないよう、今から準備を始めよう。