■ケチとなじられたことに激昂し73歳の妻を絞殺した81歳
こんな事件も起きている。
「2021年2月、静岡県浜松市で、当時81歳の夫が、73歳の妻を絞殺した事件では、夫は、妻に5~6枚の湿布を貼り“もういいだろう”と思ったところに、妻から『けち』となじられて逆上。タオルで妻の首を絞めた。
裁判では、2人で小旅行を楽しんだり、夫は持病のある妻をかいがいしく世話したりするなど長年連れ添った夫婦に何があったか注目されましたが、夫の認知症の影響はなく、妻が発した『けち』の一言がきっかけで激しい口論の末、強い殺意をもった夫の犯行と判断されました」(地元紙記者)
夫婦ゲンカから、殺人事件まで至るのは、かなり特殊なケースだと思うかもしれないが……。
「たしかに夫の浮気が原因で重大なトラブルになるケースが圧倒的に多い。『自分に関心がないのに、ほかの女は大事にするのは許せません』と言う女性は多くいます。
しかし夫婦が退職したあとも要注意。通勤がなくなり2人で過ごす時間が長くなれば、お互い見えなかった嫌な面もあらわになってきます。共通の趣味もなければ会話もない。ただ時間を持て余していると、何もしない夫に対する妻の不満がたまる。一方、夫も、口うるさい妻へのストレスが蓄積していく。長年積もり積もった病的なまでの“相手を許せない”という不満やストレスが、ちょっとした一言がきっかけとなり、爆発してしまうのです」(山脇さん)
■定年後こそ大事なのは“形容詞の共有”
2030年には、65歳以上の夫婦のみの世帯数は、1158万世帯を超え、熟年夫婦が全世帯の5分の1に。そんななか夫婦間で起こるトラブルも増加するのではと危惧されている。
いったいどうしたらいいのだろうか。
『なぜ「妻の一言」はカチンとくるのか?』(講談社+α新書)の著者で、夫婦問題研究家の岡野あつこさんが語る。
「長年一緒にいると“あうんの呼吸”があると思いがちですが、とりわけ2人の時間が増える定年後は“暗黙の了解”はないと思ったほうがいいです。大切なのは、夫婦で日常的にコミュニケーションをとること。たとえば会話が減っても『ありがとう』や『助かった』など感謝の気持ちを伝えることを心がけることが重要です」
若いときなら、気にも留めない一言でも、熟年夫婦では、大きなトラブルに発展することは少なくないと、岡野さんがこう続ける。
「メールやLINEを送るときにメッセージを読み返すように、その一言が相手を傷つけないか考えることも。ものは言いようで、老けていると言いたいけど“落ちついた”、文句が多い人と指摘するときも“自分の意見をもっている人”と言い換えるだけでも夫婦関係はスムーズになります」
山脇さんが最後にこう語る。
「殺人事件に発展しないためにも、ふだんから暴力をふるわれたり、言葉や態度など心理的攻撃をされたり、配偶者から被害をうけた場合には、警察や配偶者暴力相談支援センターなど駆け込む場所に行き、相手にしっかり『ノー』と行動で示すことも重要です。
“相手を許せない”気持ちを増幅させないためにも、楽しい、面白い、うれしいなど“形容詞の共有”を大切にしてほしいですね。相手の関心や興味を再認識できれば、お互いに抱いている小さな不満も解消していくでしょう」
2人時間が長くなるからこそ、お互いを思いやる気持ちを改めて見直すことが不可欠のようだ。
