トイプードルを敏腕の警察犬に育て上げた鈴木博房さん 大企業に入社するも30代後半で指導士の道を選んだワケ
画像を見る シェパードのグリムと。殺処分寸前で救われたアンズを受け入れてくれた(写真提供:岩崎書店)

 

■「人助けができる趣味を持ちなさい」。母の言葉を思い出し警察犬指導士の道に

 

’50年8月13日に静岡県磐田市で生まれた鈴木博房さんが、警察犬と関わりを持ったのは中学2年生のときだった。

 

「親戚の叔父が警察犬のシェパードを飼っていて、私もよく散歩に連れて行ったり、しつけに関わったりしていたんです」

 

いっぽう小学生のころにアマチュア無線の免許を取得するなど工学に興味を持ち、大学卒業後は日立グループの企業に入社。

 

「母からは『大企業に入ると、自分の好きな仕事はできない。仕事とは別に、自分の好きなことで人助けができる趣味を持ちなさい』とアドバイスされたのを覚えています」

 

入社後は火力・原子力発電所の試運転や定期検査、産業用発電設備設計などを任され、結婚をして長男に恵まれても激務続き。趣味も見つけられず、悶々とした日々を送っていた30代後半、ある新聞記事が目に留まった。

 

「行方不明の高齢者が凍死する事件が続き、警察犬が有効だと報じられていました。そこでかつての母の言葉を思い出したのです」

 

自分で警察犬を育て、行方不明者を捜せば人助けになるはず。だが本業よりも出動要請を優先しなければならない……。

 

「当時、大企業を中心に社会貢献をしようという機運があったので、『本社勤務から工場勤務に異動して、警察犬を育てたい』という私の申し出を、上司は許可してくれました。でも『これ以上の出世はできないよ』とも忠告されました(笑)」

 

鈴木さんはシェパードを飼える庭を確保するため、茨城県東海村に転居。近所に住む警察犬の訓練士から子犬を譲り受け、アリスと名付けた。

 

生後6カ月から本格的な訓練を始め、アリスは2歳7カ月で茨城県嘱託警察犬の試験に合格。

 

「30年ほど前は、年間の出動回数もわずか3~4回ほどで、まだまだ嘱託警察犬は信頼されていなかったのです。

 

仕事が終われば“はい、さよなら”と置き去りにされてしまい、1時間ほど歩いて家に帰ったこともありました。もっと役に立つためには実績を積み重ねていくしかないと覚悟を決めたのです」

 

市街地での捜索で車の音に反応して集中力を切らさないように、アリスには国道に何時間も座らせて音に慣れさせた。また殺害されて埋められている遺体の捜索を想定し、一晩おいて腐らせた豚足を海岸に埋めて見つけさせる訓練も行ったという。

 

そんな猛訓練のかいもあって、出動回数も着実に増えていった。

 

「アリスが土のついた大根をくわえて持ってきたのかと思ったら、それがなんと“被害者の脚”だったこともありました」

 

次第に警察からも信頼を得ていき、新たなシェパードを迎えては警察犬に育て、指導士としても成長した鈴木さんは、’13年3月、1頭のトイプードルと出会うことになる――。

 

(取材・文:小野建史)

 

【後編】《殺処分寸前のトイプードルを警察犬に》鈴木博房さん トラウマと嘲笑に負けなかった“子犬と指導士の12年事件簿”へ続く

 

画像ページ >【写真あり】中学生時代の鈴木さん。叔父がシェパードの警察犬を育成していた(他6枚)

【関連画像】

関連カテゴリー: