■「私の世代はまだ『大人なのにぬいぐるみなんて恥ずかしい』と見られる感じでした」
次になつみクリニックを訪れたのは、30代のさつきさん(神奈川県在住)だ。
「うもうもさん(牛)」「そらそらさん(そらジロー)」は’25年秋に入院し、クリニックで年越しして約3カ月後の退院となった。
「うもうもさんは、私が小2のころからずっといっしょにいます。母と買い物に行ったスーパーで引いた、くじの1等の景品でした。
そらそらさんは大学生のとき、日本テレビのグッズショップで買いました。ふたりとも赤ちゃんのまま、ずっとかわいらしい!」
さつきさんは幼少時から、どこにでも持ち歩くほど、ぬいぐるみを大事にしてきた。その習慣は、大人になっても変わらず……。
「でも、私の世代はまだ『大人なのにぬいぐるみなんて恥ずかしい』と白い目で見られる感じでした。正直、社会人になって以後は『恥ずかしいかな?』『やっぱダメかな?』とビクビクしていたんです。それが近年は『ぬい活』という言葉が使われるようになって、あるとき検索していたら『なつみクリニック』の存在を見つけました」
30代の彼女が「ずっと認められていなかった」と振り返るように、「ぬいぐるみ活動」が“市民権”を得たのは最近のことだ。
リュックにぬいぐるみをぶら下げたり、専用のクリアポーチに入れるスタイルも定番化し、昨年は「ぬい活」という言葉が「2025新語・流行語大賞」にもノミネートされた。
早稲田大学文化構想学部准教授で人形文化研究者の菊地浩平さんは、次のように分析している。
《ぬいぐるみと旅行に出かけたり、写真を撮ったりする「ぬい活」が流行って、大人もオープンにぬいぐるみ愛を語れるようになりました。SNSを通して、ぬいぐるみ好きの人と繋がれるようになったことも、人気のきっかけになっているかもしれません》(写真集『ずっと、だいすき。』より)
その広がりは女性のみならず、近年はプロ野球の新人選手が入寮時に「連れてくる」存在としても注目されるほど。
さて、さつきさんがなつみクリニックを知り、汚れてしまっているコたちを預けようとフォームを通じて予約してから《ご入院の準備ができました》と通知を受け取ったのは約5カ月後。
あらかじめ記入して提出した問診票や、入院時の診察などをもとに11月から治療が始まった。
なつみクリニックは女性スタッフ8人体制で鋭意治療に当たっているものの、予約が殺到していて、入院まで「数カ月待ち」の状態が続いている。
入院期間は治療によるが、1カ月半から、長ければ3カ月ほどかかることもある。
「本当に、身を切るような思いで入院させました。それでも安心できたのは、HPでスタッフさんが顔出しで紹介されていて、保護者とのやり取りも公開していることで、信頼できたんです」
ほかに家にいるコも「今後治療してもらいたい」という。
「なつみ先生やスタッフさんが、ぬいぐるみさんを、とっても愛情深く診てくださっていると、実感できました」
(取材・文:鈴木利宗)
【後編】「修理は治療」と痛感…予約殺到の“ぬいぐるみ専門クリニック”院長が語った「開業を決意したターニングポイント」へ続く
画像ページ >【写真あり】いまや入院まで数カ月待ちの人気クリニックに(他6枚)
