「自衛隊に行く子供たちって、経済的に厳しい子供たちが行くんですよ。豊かな子供たちは自衛隊とかなりませんよ」
6月15日の参議院決算委員会での立憲民主党の古賀千景参院議員(59)の発言に批判が集まっている。発言後、すぐに古賀議員は謝罪と撤回をしたものの、多くの批判をうけて17日には立憲民主党の水岡俊一代表(70)も陳謝。古賀議員は厳重注意処分を受け、文教科学委員会における筆頭理事を解任されることになった。17日の国会では、同僚議員に声をかけられたあと、ハンカチで涙を拭う古賀議員の姿があった。
専門家は古賀議員の発言をどう考えるのか。安全保障について長年取材し、自衛隊にも詳しいジャーナリスト布施祐仁氏に話を聞いた。
「古賀議員の発言は、『自衛隊に入る人はみんな貧しい人たちだ』『経済的な余裕があれば自衛隊には行かない』という意味に受け取られかねません。
しかし、それは事実ではありません。自衛隊に入る人がみんな貧しい家庭の出身というわけではありませんし、経済的な事情だけで入隊するわけでもない。そういう意味で、表現としてまずかったと思いますし、撤回したのは当然だったのではないでしょうか」
古賀議員の発言をそう批判した一方で、小泉進次郎防衛大臣(45)の発言もこう補足する。
「小泉大臣は会見で『国のため、社会のために志と誇りを持って働いている』と語っていましたが、それもまた全員に当てはまるわけではありません。特に任期制隊員として数年間勤務する若い人たちについて言えば、全員が強い国防意識や使命感を持って入隊しているわけではないのです」
X上では、古賀議員の発言に多くの批判が集まる一方で、実際に自分や親族が経済的な理由で自衛隊に入隊したという証言も多かった。
「どちらか一方に単純化できる話ではありませんが、経済的に厳しい家庭の出身だったり、将来に不安を抱えていたりする若者たちが一定数、自衛隊に入っていることは間違いありません。そこは事実として見ていく必要があると思います」
■自衛隊員は都市部に少なく地方出身者が多い
じつは、“軍”に経済的な理由で入隊する傾向があることは、諸外国でもたびたび指摘されてきた問題だという。
「たとえば、アメリカではアフガニスタンやイラクでの戦争中に兵士の確保が厳しくなったときに、大学の奨学金制度の拡充が行われました。もともとアメリカには軍に入隊して一定期間勤務すれば大学進学のための支援を受けられる制度がありましたが、それをさらに充実させました。
経済的に大学進学が難しい若者や、医療保険に入れず、病気になっても十分な医療を受けられないような貧困層の若者にとっては、軍に入れば大学に行ける、あるいは家族も含めて医療保障を受けられるというメリットがあります。そうした経済的な理由から貧困層の若者が多く軍に入隊し、アフガニスタンやイラクの戦場に送られたのです。こうした問題は、『経済的徴兵制』などと呼ばれ、長年問題になってきました」
じつは「日本にも共通する部分がある」と布施さんは指摘する。
「自衛隊の主な募集対象は18歳前後の高校生です。しかし対象者は全国にたくさんいる一方で、募集活動を行う広報官やリクルーターの数には限りがあります。そうなると、どうしても『入隊してくれる可能性が高い層』に重点を置いて募集することになります。
結果的に、経済的に厳しい状況にある若者が重要なターゲットになります。例えば、大学に進学したくても学費の問題で難しい人たちです。そうした層に対して重点的にアプローチする傾向は、アメリカと程度の差こそあれ、日本にも共通して見られます」
2024年には自衛隊が北海道札幌市内の子ども食堂約80カ所に就職勧誘を打診し、実際に約10カ所を訪れ採用案内を配布したことが発覚し問題となった。また、日本の人口分布とは異なり、隊員が地方出身者に偏っていることもたびたび指摘されてきた。
「自衛隊の募集対象の中心は高校生です。そう考えると、大学進学率の高い都市部よりも、地方のほうが募集活動の重点地域になりやすいんです。結果として、自衛官の出身地と各都道府県の平均所得を比較すると、平均所得の低い県ほど自衛官の割合が高い傾向が見えてきます。これは公表されているデータからも確認できます」
こうした傾向は海外の“軍”にもみられるものだという。
「ロシアについては、ウクライナ侵攻で亡くなった兵士の出身地を分析した報道や調査がありますが、モスクワやサンクトペテルブルクといった大都市出身者は比較的少なく、シベリアや極東、サハリン、北カフカスなどの地方地域に大きく偏っていることが分かっています。つまり、戦争の負担や犠牲が社会全体に均等に広がるのではなく、経済的に厳しい地域や周辺部に集中する傾向があるわけです」
■経済的事情で選択を迫られるような状況は望ましくない
実際に、自衛隊には経済的なメリットを強調して隊員を募集してきた歴史があるという。
「自衛隊が毎年必要な人数を確保するためには、『国を守るために働こう』という理念だけではなかなか人は集まりません。現実には、衣食住が保障されることや、安定した収入が得られること、任期制隊員として2年、4年、あるいは6年勤務すればまとまった退職金が受け取れること、自衛隊病院では医療費負担が少ないこと、さまざまな資格取得の機会があることなど、経済的なメリットを前面に打ち出して募集を行ってきました。そうした手法は昔から見られましたし、現在も続いています」
一種のセーフティーネットとしての役割を自衛隊は果たしてきたという。
「経済的に厳しい家庭の若者が、自衛隊に入ることで大学に進学できるようになる。それ自体を見れば良いことだと言う人もいるでしょう。しかし私は、単純に『それでいいですね』とは言えません。なぜなら、自衛隊は有事になれば前線に立ち、命を懸けなければならない職業だからです。
だからこそ、経済的な事情によって事実上選択を迫られるような状況は望ましくありません。実際、私が過去に取材した隊員の中には、『経済的な事情がなければ自衛隊には入っていなかった』と話す人もいました。そういう人でも、隊員である以上、有事になれば命を懸けて戦わなければならないのです。アメリカやロシアのように、戦争になったら経済格差がそのまま命の格差になってしまうような国のあり方を肯定することはできません。
本来であれば、若者の進学や生活を支えるセーフティーネットは、自衛隊が担うものではなく、社会全体として整備されていなければならないはずです。その仕組みが十分ではないために、自衛隊が事実上のセーフティーネットになってしまっているとすれば、それは社会のあり方としても、政治のあり方としても健全とは言えないのではないでしょうか。
まずは、経済状況にかかわらず教育を受ける権利がきちんと保障される社会をつくること。そのうえで、自衛隊という仕事を消極的な選択ではないかたちで選べる環境を整えることが大切です。そして、そのような環境の中でリスクも理解した上で『国を守る仕事に就きたい』と思って入る人たちを支援し、処遇を良くしていくことは大切なことだと思います」
画像ページ >【写真あり】同僚議員から声をかけられ、手を合わせる古賀議員(他1枚)
