「一緒にいて不幸だと思ったこと一度もない」津久井やまゆり事件から10年…施設を離れた生存者・尾野一矢さんの家族が語る“植松死刑囚への回答”
画像を見る 事件の日、やまゆり園の慰霊碑に手を合わせる。「昔は園に近寄るのも嫌っていたのが毎年、行けるように」(父・剛志さん)

 

■「お母さん、好き」「お父さん、だーい好き!」その笑顔に幸せを感じる

 

「英雄ですよね。僕なら自慢げに吹聴しちゃうと思う。そういうのが、一矢さんには一切ないのが逆に、すごいなって思うんです」

 

大坪さんが話すのは、事件から3年半ほどのち、公判で明らかになった当日の一矢さんの行動のこと。

 

結束バンドで拘束されていた職員の「携帯電話を取ってきてくれない?」という頼みに、負った傷の痛みをこらえながら、一矢さんは応じていた。リビングルームまで這っていき携帯電話を職員に届け、それが110番通報に、迅速な救助活動につながったのだ。

 

「そういうところも一矢さん、新田さんに似てます。世間から『金食い虫』『迷惑だよ』と心ない言葉をぶつけられながら運動した結果、バリアフリー化が進み、誰もが暮らしやすくなったのに。新田さんは褒められることもなければ、決してふてくされることもなかった。植松は『不幸しか作らない』と決めつけたけど、一矢さんには、あんなすごいことができたんです」

 

両親も「一矢といて不幸だなんて思ったこと一度もない」と力を込める。剛志さんは笑顔で続けた。

 

「むしろ、幸せを感じることばっかり。どんなとき? それはやっぱり、一矢が笑ってくれたときですね。いい顔して笑うんだ。『お母さん、好き?』って聞くと、笑顔で『お母さん、好き!』って」

 

すると、今度はチキ子さんが「面白くない」と言わんばかりに、言葉を継いだ。

 

「最近もね、かんちゃんのアパートに遊びに行って『一矢、お父さん好き?』って聞いたの。そしたらさ、『お父さん、だーい好き!』だって。『だーい』まで付けるんだよね、私には付かないのに(笑)」

 

取材の日、一矢さんは大坪さんとのドライブで、江の島まで足を延ばした。ランチは大好きなソースをたっぷりかけた、希望どおりのカキフライ。食べたいものを、食べたいように食べる──、そんな当たり前の自由を、いまようやく一矢さんは享受している。

 

「かんちゃん、おいしいですか?」

 

大坪さんの言葉に箸を止めた一矢さんは、ソースだらけの口元と、力いっぱいの笑顔で答えた。

 

「おいしいー!」

 

(取材・文:仲本剛)

 

画像ページ >【写真あり】「たとえ、重い障がいがあっても、堂々と町を闊歩できる、そういう世の中にしなきゃいけないと思ってます」(他5枚)

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