10月18日投開票の横浜市長選挙には、辞職した山中前市長も出馬(写真:共同通信) 画像を見る

「言葉だけの反省ではなく、行動を改める」

 

10月4日、前市長の辞職に伴う横浜市長選が告示された。パワー・ハラスメント問題で9月に市長を辞職し、出直し選に立候補した山中竹春前市長(54)は、駅前での第一声を謝罪から始めた。

 

地元誌記者は、こう経緯を説明する。

 

「山中氏をめぐっては今年1月、当時の人事部長が実名でパワハラを告発。外部弁護士による第三者調査委員会が調査を行い、7月30日に公表された報告書で、複数の行為がパワハラと認定されました。

 

その内容は、『怒鳴る』『机をたたく』『書類を投げつける』といった行為のほか、職員を『ポンコツ』『人間のクズ』『おばさん』などと呼ぶ人格を傷つける発言、『アフリカ開発会議(TICAD)を誘致できなければ切腹』といった発言、さらには人事について『飛ばす』『粛清感強いでしょ』と発言するなど、人事権を背景に職員を心理的に圧迫したと認定されたものまで含まれていました」

 

第三者委員会は一連の行為を「看過できない重大なパワー・ハラスメント」と認定。

 

山中氏は報告書を受け入れ、8月28日、「自分の言動がどのように受け止められるのかを想像する姿勢が十分ではなかった」と謝罪し、辞職を表明した。

 

ところが、それから約1カ月後の9月29日、山中氏は出直し市長選への立候補を表明した。

 

「会見では、『私のような人間が再び前に出てよいのか、自問自答し続けた』としつつ、これまで進めてきた子育てや防災などの政策について『市民と約束した政策をやり遂げる責任がある』と説明。辞職後、街頭で謝罪するなかで政策を支持する市民の声を聞き、市民団体などから出馬要請を受けたことも、再出馬を決めた理由だとしています」(前出の地元誌記者)

 

山中氏は、今回の選挙について「みそぎのものにするつもりはない」とも説明している。

 

そのうえで、会見ではこんな言葉も口にした。

 

「私はハラスメント加害者。なぜこの問題が起きたか理解しているから行える対策がある」

 

■「加害者だからこそできる対策」に専門家は「衝撃」

 

この発言をどう考えればいいのか――。

 

職場のハラスメントやリーダーシップなどを研究する神奈川県立保健福祉大学大学院教授の津野香奈美氏は、驚きを隠さない。

 

「率直に言うと、『加害者だからこそできる対策がある』というのは、今まで聞いたことのない発言だと思います。衝撃を受けたというのが正直なところです」

 

津野氏によれば、ハラスメントやいじめの行為者には、自らの行為を十分に自覚しにくい傾向があり、「3つの否認」がみられるという。

 

一つ目は、自分がハラスメントをしたことを認めない「責任の否認」。二つ目は、自分の行為が被害者や組織にどれほどのダメージを与えたかを認めない「損害の否認」。そして三つ目が、「相手が過敏だった」などと考え、被害者そのものを認めない「被害者の存在の否認」だ。

 

津野氏はこう指摘する。

 

「今回、辞任を表明してから1カ月程度で再出馬ということになっています。おそらく出馬を決心したのは、それより前でしょう。それくらいの短い期間で、自分自身の行為についての責任、その行為がもたらした損害、そして被害者の存在、そのすべてを本人が腹落ちする形で認識できている可能性は、かなり低いのではないかと見ています」

 

一方、山中氏は再出馬にあたり、再発防止策も具体的に掲げている。

 

特別職を対象としたハラスメント防止条例の制定や、第三者による自身の言動のチェック、職員らによる「360度評価」などを導入する考えを表明。市長に戻ることで苦痛を感じる職員については、自ら直接応対せず間に人を介し、被害を受けた職員と「真摯に向き合う」としている。

 

自身が不適切な行動を取りそうになった場合にも、ルールや第三者による評価によって抑制できる仕組みを作る必要があるとの考えを示している。だが、津野氏は「問題は直接の被害者だけではない」と指摘する。

 

■顔を見るだけでフラッシュバックすることも

 

津野氏によれば、海外の研究ではハラスメント被害者の76%にPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状がみられたとの報告があり、ハラスメントが終わって5年たっても65%にPTSDに関連する症状が残ったとの研究もあるという。

 

「被害者からすると、顔を見るだけで恐怖心を思い出したり、動悸がしたりすることがあります。また、本人に会わなくても、自分が怒鳴られている場面などが突然フラッシュバックすることもあります」

 

そのため通常のハラスメント対応では、行為者と被害者を物理的に離すことが原則になるという。しかし相手が「市長」なら、市役所で働く限り、その存在から完全に離れることは難しい。

 

さらに津野氏が問題視するのが、「パワハラのスピルオーバー(波及)効果」だ。

 

「自分自身がパワハラを受けているかどうかとは別に、パワハラが存在する部署で働いていること自体が、その人が1年後にメンタルヘルス不調になることを予測することが分かっています。離職意思も高めます」

 

つまり影響を受けるのは、第三者委員会によって被害を認定された職員だけではない。

 

「『被害者と本人との個人的な接触を一部遮断すればいい』という話ではありません。パワハラをした実績のある人物が再び組織のトップに立つこと自体のリスクがあるのです」

 

ハラスメントは「生産性の低下や離職にもつながる」と津野氏。職員が離職すれば、残された職員の業務負担が増える可能性もある。

 

「政治家本人がどれほど素晴らしい政策のアイデアや戦略を持っていたとしても、それを実際に実行するのは市の職員です。実行部隊と良好な関係性を築けないと、政策を実行することもうまくいきません」

 

■再選が行為者に「自信」を与える危険

 

有権者の側にも、知っておくべき人間の心理があるという。そのひとつが「ハロー効果」だ。

 

「仕事ができる、実績がある、魅力的であるなど、何か一つでも優れた特徴がある場合、そこに引っ張られ、『きっと人格的にも優れた人だ』と評価してしまうことがあります。

 

その結果、ハラスメントの事実を知っても『受け手にも問題があったのではないか』などと被害を小さく捉えてしまうことがあるのです」

 

さらに津野氏が懸念するのが、ハラスメント行為を認定された人物が、再び組織のトップに戻った場合だ。

 

「再選したときにリスクが高くなる要素の一つは、ハラスメント行為をした首長が『自分は市民から支持を得ている』という自信を獲得してしまうことです」

 

津野氏は、暴走するリーダー、その人物についていくフォロワー、さらに行動を助長する環境が組み合わさる構造を「有害な三角形(Toxic Triangle)」として説明する。

 

「再選されれば、本人にとって反省する機会を失うことにもなり得ます。むしろ自信を強めて、『一部の受け取り手の問題だった』と本人が認識してしまう可能性もある。その結果、またハラスメントが再発するのではないかという危惧を持っています」

 

仮に再選された場合について、津野氏は、被害者だけでなく職員との直接的な接触を避け、副市長などを介して組織運営を行うほどの対策が必要ではないかと話す。

 

「問題が発生してからまだそれほど時間がたっていません。少なくとも1年程度は職員と物理的に離しておかないと、職員の皆さんに悪影響を及ぼす可能性が否定できません」

 

■山中氏は「異論を言える風通しの良い市役所へと立て直す」と回答

 

このような指摘をどう考えるのか、山中氏側に見解を求めたところ、文書で回答がきた。

 

――辞職表明から約1カ月での再出馬となりましたが、「ハラスメント行為について十分に反省・検証する時間がなかったのではないか」という指摘があります。山中さまご本人は、どうお考えでしょうか。

 

「報道のなされた1月以降、自身の言動を真摯に振り返ってまいりました。辞職後、市民の皆様と直接お話しする中で、今回の再出馬に対するさまざまなご指摘を重く受け止めています。私の反省だけでご理解をいただけるとは考えておらず、今後も、当事者として、自らが招いた事態を背負い続け、二度と同じ問題を繰り返さないための防止策や組織づくりに取り組み、具体的な行動と制度構築を通じて責任を果たしてまいります」

 

――再選された場合、直接被害を受けた職員だけでなく、市役所で働く職員全体への心理的な影響についても懸念があるという指摘がございます。その点については、どのように対応されるお考えでしょうか。

 

「市役所で働く職員の皆様の職場環境の再構築が不可欠ですので、相談窓口の拡充等、再発防止と職員の皆様が相談しやすい体制の構築を行います。 異論を言える風通しの良い市役所へと立て直すことで、市民の皆様へより質の高い生活者目線の行政サービスという形で報いてまいります」

 

――再選された場合、「すべてが信任された」と受け止めてしまい、同様のハラスメントを繰り返してしまう可能性もあるという指摘がございます。これについては具体的にどのような対策を講じるお考えでしょうか。

 

「職員や市民の皆様による市長評価と結果公表、人事配置への異議申立の仕組みや市長の厳格な行動基準の策定等に加え、第三者への通報窓口を設ける等、組織的に監視する仕組みを整えて参ります」

 

投開票は10月18日。今回の市長選には山中氏のほか、前衆院議員や弁護士、建築家ら新人6人が立候補し、計7人による選挙戦となっている。

 

画像ページ >【写真あり】人の心を壊してしまうパワハラ(他1枚)

出典元:

WEB女性自身

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