今年、デビュー30周年を迎える野村宏伸が、映画『ゼウスの法廷』で演じたのは、自分の信念を貫く弁護士の内田という男性だ。刑事訴訟法の抜け穴を突いた社会派の作品で、野村が感じたこととは。
のむら・ひろのぶ★
65年5月3日生まれ、東京都出身。84年、映画『メインテーマ』のオーディションで2万3千名の応募者から合格し俳優デビュー。これ
までの出演作に映画『キャバレー』(86年)、『時をかける少女』(97年)、TVドラマ『とんび』(TBS系)などがある。
映画『ゼウスの法廷』
監督/高橋玄
3月8日(土)より、シネマート六本木ほか全国順次ロードショー
(C) GRAND KAFE PICTURES
――内田という男性をどのように分析され、演じられたのでしょうか。
「一見、冷めているように見えるけども、芯は熱いものを持っている。検事という仕事をしていく中で、どうしても納得がいかないものがあって、家族がいるにもかかわらず、信念を貫くために自分の進みたい道を歩いていく。それが観ている方に、素直に伝わればいいなと思いました」
――安定した職業に就きながらも、新しい道を歩む内田に影響を受けた部分はありますか。
「彼の生き方に勇気をもらいましたね。この撮影の前後で、所属事務所を独立したんです。ですから内田を演じながら、いろいろと思う部分はありました。やりたいものを後悔せずにやる。そして何事もやってみないと始まらない。そういうことを考えていました。僕は不器用ですから、何事においても自分が納得したものを選択していきたいし、それを貫きたいと思っています」
――84年にデビューして、今年、俳優生活30周年を迎えます。
「ありきたりですけど、長いようであっという間の30年でしたね。10年までが長く感じました。それ以降は、時間の経つスピードが速くなっていったような気がします」
――デビューして10年を迎えるまで時間が長く感じたというのは、何かがあったんでしょうか。
「俳優として頑張っていこうと決めたのが10年ぐらい経ってからなんです。それまでは俳優が向いているのかな、サラリーマンのほうが安定しているんじゃないのかなとか、そんなことを考えながら仕事をしていました(笑)。父親が自営業をしていて倒産して、それと同時に家がなくなってしまった。それがトラウマのようになっていて、だからこそ安定した収入のあるサラリーマンになりたいとは常々言っていましたし。でも、10年ぐらいが経って、お芝居の面白さがわかってきた。もっと突き詰めていきたいという思いが出てきました」
――野村さんといえば、本誌の読者層にはテレビドラマ『教師びんびん物語』の榎本英樹役という印象も強いと思います。
「初めてテレビドラマに出演したのが“びんびんシリーズ”の『ラジオびんびん物語』なんです。その半年後に出演した『教師びんびん物語』が、これから役者をやっていく上で評価が出るという勝負の作品でもあった気がするんです。あの『榎本』という役はインパクトがありましたからね。自分とはまったく正反対のタイプの役でしたが」
――榎本はけっこう情けない弱々しいタイプでしたよね。
「そうそう(笑)。あの榎本という役を演じるのは、自分を捨ててやらなくてはいけなくて、かなり勇気と勢いが必要でした。抵抗感があったのは否めません。当時は街の人たちも、僕のことを榎本だと思ってましたから(笑)。それはいいことでもあったけど、ひとつの役のイメージがついてしまうこともあるので、番組が終わってからも、ヒットしたという事実は嬉しかったけれども、俳優としては、イメージが定着してしまうんじゃないかという不安感もありましたよね。やはり、それ以降も、榎本に似たような役柄が来ましたし」
――イメージを払拭させるのに悩んだ時期もあったのでしょうか。
「悩んだというより、ジレンマですね。複雑な思いがありましたね」
――プロフィールを拝見したら、野村さんの趣味はアウトドアなんですよね。サーフィンにキャンプと。それもちょっと意外に思えました。インドアなイメージがやはりあって。
「昔から、休みがあれば海に行ったりキャンプしたり。インドアな印象に見える方もいらっしゃるでしょうけど」
――デビューして30年を迎え、今後の抱負がありましたらお聞かせください。
「NOMUZUプロジェクトというんですけれど、6月に、自分たちで企画した舞台を上演します。これで2度目なんです。1度目はちょうど事務所を独立した時期にやりました。その第2弾を6月にやります。今後は、演じることはもちろん、裏方の部分とか、若手の育成にも興味があります」
――プライベートでの抱負は?
「行ってみたい場所がたくさんあるので、旅行をしたいですね。スペインやポルトガルに行ってみたいです。南米もいいですよね。会社をつくってからはそう思う余裕もなかったので、仕事以外の部分を充実させようと思えるようになったのは、いいことなのかなと思います」
――最後に、作品のPRをお願いします。
「刑事訴訟法について描く堅い部分もあり、恋愛という柔らかい部分もある。それらをリアルに描いていますし、法廷のシーンは臨場感があると思います。そういう部分を楽しんでいただきたいです」