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「声高に主張しても、違う考えを持っている人の心を開くことはできませんから。跳ね返ってくるだけで。固く閉じている心を開くのは、アートや音楽、映画や物語の強さだと思います。だから、こういうときこそ、より必要だと思います」

 

そう話す坂本龍一さん(65)は、吉永小百合さん(71)と一緒にこれまで核なき世界と平和への活動を続けてきた。「非戦」「核廃絶」への思いを胸に、一緒に活動を始めて6年……初めての対談が本誌で実現した!

 

吉永「「昨年は5月のカナダのバンクーバーと12月の大阪。それに、3月の「東北ユースオーケストラ」(坂本龍一さんが主宰・音楽監督)を入れると、3回も坂本さんとチャリティコンサートや朗読会をやらせていただきました。坂本さんに初めてお会いしたのは’09年の12月。コンサートをなさっていた坂本さんをお訪ねして、’10年の7月に『平和への絆』というコンサートをやりますので『ぜひご出演いただきたい』とお願いしたんですね」

 

坂本「吉永さんが長年原爆詩の朗読を通して『核の廃絶』を訴えていらしたことは知っていましたけれど、そもそも、なぜ僕に声をかけてくださったのかいまだに疑問でして(笑)。なぜでしょう?」

 

吉永「あのときはまだ、原発の事故も何もなかったときでしたけれど、坂本さんは高速増殖炉『もんじゅ』に反対する女性(「ストップ・ザ・もんじゅ」事務局代表の池島芙紀子さん)を応援なさったり、いろいろなところで活動なされていると聞いていましたので。思いを共有できる方だと思ったのと、坂本さんの平和に対する『非戦』というメッセージ。反戦ではなく非戦。この言葉をみんなが共有して『非戦』について考えていくことはとても大切だ、と。しかも、’10年は戦後65年でしたから。この節目の年に、坂本さんとご一緒にコンサートをやることは、とても意義のあることだと思ったんです」

 

坂本「もったいないお言葉ですけど、僕は『非戦』と言いながら、100%実行できるかというと、そう簡単にはいかないと思っています。たとえば、今も毎日のようにシリアをはじめいろいろなところで、空爆やテロで幼い命が失われている。最愛の子どもを失ったお父さん、お母さんに、僕たちは『復讐するな』『報復するな』と、はたして言えるだろうか……。最愛の身内を失った人たちに、それを言うのは残酷なことだし、『非戦』は難しく、とても深い問題だと思います」

 

吉永「難しいけれど、報復をやめないとますます泥沼化してしまいます」

 

坂本「そのとおりで、報復すれば、されたほうも報復するという連鎖が続きます。これを断ち切ることは必要ですが、難しい問題ですね」

 

吉永「難しいといえば、『自国第一』を主張する大統領や指導者が世界中に何人も出てきています。こうした流れのなかで、私たち一般市民が、どうすれば核のない、戦争のない世界へと向かっていけるのか……。これも、とても難しい問題だと思います」

 

坂本「僕は、緊張が高まっている今だからこそ小説や物語、映画や音楽やアートに力があるような気がします。リアルな世界で緊張と緊張がぶつかり合っているときって、みんな音楽のことなんか忘れていると思うんです。でも、そこに『ポロリン』という音が入ってきた瞬間に『ああ、忘れていた』と誰もが感じる」

 

吉永「そうですね」

 

坂本「忘れていたことを思い出させるのは音楽やアート、映画や小説の役割ではないでしょうか。僕はアメリカに住んでいて、アメリカ市民ではないので選挙権はないですが、やはり、トランプ氏が大統領選挙で当選したときには本当にショックで。周りにはショックで泣いている人もたくさんいましたけれど、翌日には『こんな時代だから、今までになく音楽やアートが必要だ』と、僕は強く思ったし、トランプ以前とトランプの時代では、アメリカにおける音楽やアートの存在の仕方が、たぶん違ってくるような気がします。それは、映画や物語も同じだと思います」

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