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「今の日本には理不尽なこと、許しがたいことがたくさん起きていますけど、『怒りの集会』とか『許すな◯◯』という形の集会ではなかなか人が集まらない。みんなが自発的に参加して、小さな声でいいから自分たちの思いや考えを語るという形にしないと、広がらないのではないかと思っています」

 

そう話す吉永小百合さん(71)は、坂本龍一さん(65)と一緒にこれまで核なき世界と平和への活動を続けてきた。「非戦」「核廃絶」への思いを胸に、一緒に活動を始めて6年……初めての対談が本誌で実現した!

 

吉永「昨年、福島の原発事故で横浜市に避難した少年が、同級生からいじめに遭い、家に震災の賠償金があるだろうと言われて、150万円近いお金を取られた−−という本当にひどい、悲しい事件がありました。この話をお聞きになってどう思われました?」

 

坂本「そのことだけではなく『子どもは大人の鏡』ですから。子どもに問題があるとすれば、それは、大人に問題があるんでしょう。賠償金の話にしても、親が子どものいるところで『あそこは賠償金をもらって得をした』みたいな話をしたり、子どもの目に触れる媒体にそういうことを書いたりする大人たちがいる。だから子どもはやるのでは」

 

吉永「ただ、子どもだけではなく、世界的な登山家で、昨年の10月に亡くなった田部井淳子さん(享年77)からうかがったのは、田部井さんが『私は福島県の出身です』と言ったら、聞いていた人が後ずさりした、と。『それが、ものすごくショックでした』と話してくださいましたけれど、こうした偏見は東日本大震災から6年になろうとしているいまも、いろいろなところで続いていると思うんですね」

 

坂本「広島や長崎でもそうでした。被爆した人たちは結婚も、就職も難しかったという話を何度も耳にしましたけれど、こうした偏見というか、非寛容。これは、いまや世界的に広がっています。ヨーロッパの難民問題にしても非寛容が問題です。この非寛容のエネルギーが戦前はナチスを生みました。だから、いまはとても危険な時代になっていると思います。

 

吉永「そうした悪い流れを断ち切るには、私たちはどうすればいいんでしょうか……」

 

坂本「『手を取り合って助け合う』という寛容さを、僕ら一人ひとりが示していくことだと思います」

 

吉永「そういうことですね。小さな行動でも、小さな声でも出し続けることしかないでしょうね」

 

坂本「そうですね。デモにしても、昔ながらの大声を出して、こぶしを振り上げるような形ではなく、『脱原発』をアピールするなら、いちばん何かを訴えたいのは福島のおじいちゃんやおばあちゃんたちです。この方たちが参加できるようなデモにしないといけないし、してほしいですね。それと、脱原発=原発をなくしていく手だてとしては、核発電をしている会社とは契約しない。いまは電力を選べるようになったし、インターネットなどで調べれば、核発電か、そうでないか簡単にわかりますから」

 

吉永「私たち消費者には選ぶ権利がありますからね」

 

坂本「だから、電力だけでなく、僕らが少し知恵を働かせるだけで、いろいろなことが変わるんです。たとえば、環境にいい取り組みをしている企業の商品を買うことは、その企業を応援することになります。また、商品を選ぶ場合も、自分が住んでいるところに、より近いところで作られたものを買うようにする。それだけでも輸送による二酸化炭素の排出を減らすことができます。だから『ものを買う』ということは、日々選挙の投票をしているのと同じなんです」

 

吉永「選挙の1票と同じで、それも『つながっていく』ということですね」

 

坂本「とくに女性の消費者はすごいパワーを持っていますから。このことを自覚してものを買っていただく。そうすれば、日本のみならず世界は確実に変わると思います」

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