「父のモットーは“楽しくなければ嫌”ということ。車いすを選ぶにしても『どんなのがある?』と好奇心旺盛で、展示場で目を輝かせている。介護生活でも私たち家族は常に、どうすれば父を楽しませられるかを考えていました」
こう語るのは、映画エッセイストの永千絵さん(59)。千絵さんは昭和を代表するマルチタレント・永六輔さんの長女。約10年にわたる笑いと涙の介護の日々を『父「永六輔」を看取る』(宝島社)にもつづっている。妹はフリーアナウンサー・永麻理さん(57)だ。
介護に関する最初の課題は、“病院嫌い、薬嫌いの六輔さんをどうなだめるか”だった。
’02年に母・昌子さんが逝去して以来、一人暮らしをしていた六輔さん。大嫌いな薬の服用をすすめるため、千絵さんは実家へ日参した。ところが……。
「子ども用の(服用のための)ゼリーを粉薬にかけても、上のゼリーだけすくって食べて、薬は残っていたり。こんなに嫌がる父に、無理やり飲ませるのは……と、いつも葛藤していました」
また、待つことが嫌いな六輔さんのため、自宅近くのクリニックへの通院では、朝一番に駆けつけて受付けを済ませた。その後、「すぐに父を呼んで来ます」と、2番目に並ぶ患者さんにも聞こえるように言い、走って迎えに行って受診させたという。
「仕事のこと、孫のことなど、おかしなネタを仕入れておいて、家でも待合室でも父を楽しませることに、さんざん頭を使いました」
そんな、誰よりも個性的な父と対話した千絵さんが、“がんこな親”をなだめる介護術を教えてくれた。
■どうやったら楽しくなる?
千絵さんがため息をついたり、疲れた顔を見せたら、「楽しくないのなら、お帰りください!」というのが六輔さんのスタンス。六輔さんは楽しいかどうかが重要なので、「じゃあ、どうしたら楽しくなれる?」と問いかけるなど、常に「上を向いて」をこころがけていたという。
■おいしいおそばを食べに付き合ってよ!
六輔さんの診察が終わると目当てのそば店へ直行したという千絵さん。
「闘病中、父は何カ所もの病院を受診したのですが、たまたまそばの名店が必ず近くにあることが幸いでした。そば好きの父に、『おそばを食べるついでに病院で受診しようよ』と。楽しい雰囲気作りが大事だと思います」
■私も安心だし、孝雄くんもきっと安心できるよ!
紙パンツをはくか否かを議論したとき。六輔さんは、常に「あなたが大変にならないように」と、家族に負担をかけたくないというポリシーの人。「『私も、孝雄(六輔さんの本名)くんも、お互いに安心な方法だよ』と伝えることで、『試すくらいは』と、それほどこだわらずにすんだと思います」