(撮影:永田理恵) 画像を見る

俳優・柄本佑(34)。父は言わずと知れた個性派俳優の柄本明(72)で、母は、舞台をはじめ、ドラマ、映画と活躍した女優の角替和枝さん(享年64)。弟の時生(31)も売れっ子俳優で、姉も映画制作に携わっている映画一家だ。

 

そして佑が12年3月に結婚したのが女優の安藤サクラ(34)で、義父は俳優の奥田瑛二(70)、義姉は映画監督の安藤桃子(38)と、こちらもまさに映画一家。

 

これまで佑は、とかく、父の影響を色濃く受けていることが特筆されてきた。しかし、18年10月に原発不明がんで64年の人生に幕を閉じた母・和枝さんとのことについて、表立って語ってきてはいない。

 

30代半ば、母を見送って丸2年が経過したいま、柄本佑の心境に、じっくり耳を傾けた――。

 

「母ちゃんと俺は、友だちみたいな感じでもあったんです。仕事の悩みも打ち明けていたし。父は非常に批評的なものの見方をする人で、なにかを聞いても、すんなり受け入れてくれない場合が多い。だから、親父に言えない悩みや相談の類いは、すべて母ちゃんにしました」

 

スタジオでの撮影を終え、ミーティングルームに腰を落ち着けた佑は、ひとつひとつ言葉を選ぶように、ゆっくりと母とのことを話し始めた。

 

「デビュー後、17歳のころかな、俺は母ちゃんにこう言ったんです。『初号(=公開前の関係者用試写)を観たときガッカリするんだよね。だから、次はそうならないようにと思うんだけど、また次の作品の初号で、ガッカリするんだよ』と」

 

息子の吐露に、母はこう答えた。

 

「なに言ってんの! この仕事は、待つのと、『ガッカリ』も、仕事のうちよ」

「なに? じゃあ、和枝ちゃんも、ガッカリするの?」

「もちろん、するわよ!」

 

佑は溜飲が下がる思いだった。

 

「その『ガッカリも仕事のうち』というのが、俺のなかで座右の銘になりました。その返答で俺のなかで満足したんだと思います。それ以上、深く突っ込んで聞かなかったですから。そこから先は『自分で考えよう』と俺自身で思ったんでしょう」

 

その母の一言が佑の中でずっと息づいていることで、佑の演技が、さらに練磨されていくのだ。

 

息子が俳優として生きていくための大きな指針を、夫とは別の角度からのアプローチで示した母・和枝さんだったが、18年10月27日、原発不明がんでの1年2カ月の闘病の末、息を引き取った。

 

享年64は、人生100年時代と謳われるいま、あまりに早い旅立ちである。それから2年を経たいま、佑は「長男として話せる範囲で」と父の立場に配慮しつつ、言葉少ないながらも真摯に話してくれた。

 

「看病……自分たちも、できる限りやったつもりです。でも、仕事にかまけて、目の前のそれから逃げていたというのもあるかもしれない。いまこうして考えてみると、足りなかったかもしれないし、『もっと頑張れば時間を作れたよな』とか、『もっとやってあげなきゃいけなかったな』という、後悔先に立たずの念はあるかもしれません……」

 

しかしもとより、佑には「自分が仕事で演じる姿を見てもらうことが、いちばん母の励みになるのではないか」という思いがあった。それは、父と自分たちきょうだいで共有する認識だったという。

 

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