■《あんまり幸せだといい歌にならない》
数々の困難に遭った明菜には悲劇のイメージがついた。後年、本人は《中森明菜というキャラクターは、あんまり幸せだといい歌にならない》(『スポーツニッポン』’03年5月1日付)と漏らした。衝撃的な発言にも取れるが、川田と売野氏はこう分析する。
「俯瞰で自分を見られる。これが彼女のすごさなんですよ」(川田)
「普通の人を理解するような感覚で、明菜ちゃんの気持ちを勝手に捉えちゃいけない」(売野氏)
’02年、20周年の明菜は復活を遂げる。カバーアルバムがヒットし、『NHK紅白歌合戦』にも復帰。当時、取材でこう語っていた。
《歌って、思い出を作ってくれるじゃないですか。時間もそうだし、呼吸、空気、香りも…。その歌に、宝箱のように、ある瞬間までをも、皆さん大事にしまっているんですね。その思い出を、絶対に崩さないというのが大前提》(『日刊スポーツ』’02年12月15日付)
’17年から活動休止中の彼女の心境を、川田が推し量る。
「ファンへの感謝が強い人ですし、『万全の状態で表に出たい』という葛藤があるのかもしれない。とことん自分に向き合って妥協しないから……。周りが完璧だと褒めても、自分が納得できなければ満足しなかった。友としては、彼女が本当に歌いたくなるまではそっとしてあげてほしいな」
それでも、「明菜待望論」は根強い。40周年記念の番組やリリースが相次いでいるのはスターの証しだ。歌の師である大本氏は断言する。
「年齢を重ねたからこそ出せる味や歌声がある。それが自然だし、それでいい」
いつになっても構わない。孤高の歌姫が解き放つ今の歌声をファンは待っている。
(取材・文:岡野誠)