■母を施設に入れると「恩知らず」と罵られた
平日は姉が面倒を見て、安藤さんは金曜の番組収録後に実家に向かい掃除、洗濯、1週間分の料理をこなす。しかし、安藤さんは土日であってもニュースがあれば現場に駆けつけなければならない。
「土曜日、母のところで家事をしていると大きな地震が起きて、局へ緊急呼び出しがかかったことがあります。そのときも、すぐに向かいましたが、母を1人にすることが不安で不安で……。IHでさえも鍋を焦がしたことがあり、火の元は特に心配でした」
家族だけでの介護は、安藤さんたちに思った以上の負担を強いた。
「一緒にいると母は用もないのに30秒に一度は私を呼ぶ。一緒にいなくても、毎朝10回は電話が来る。姉にも同じです。『いい加減にして!』と何度も衝突しました」
認知症の症状の一つである、被害妄想も安藤さんを苦しめた。
「もともと大らかで社交的だった母が、人が変わったようにえげつない妄想や、むき出しの言葉を吐き出すんです。助けてくれようとしている人に対してひどい言葉を発する母が許せませんでした」
なんとか1年間は気力を振り絞って母の介護を続けたが、その1年で、家族全員が心身ともにボロボロの状態にまで追い込まれた。
「もう家族だけでの介護は無理。そう思って、高齢者施設を探し始めました。3人で何十軒も見学に行って、入所する施設を決めたはいいものの、施設に入りたくない母を連れて行くのも骨が折れて。’10年に『家の水道工事があるから』と、嘘をついて施設へと連れて行きました。けれど、頭のいい母はすぐに感づいて『家があるのになんでここにいなきゃいけない』『恩知らず』と、罵詈雑言の嵐。さすがに心が折れました」
相変わらず、知らない人に介護されることを拒んでいたみどりさん。入浴補助をするスタッフをつねり「訴えてやる」と暴言を吐く。施設から逃げ出し家に帰ろうとしたこともあり、安藤さんの罪悪感は日に日に増していった。
「母から罵倒されたことや“施設に入れた”ことへの後ろめたさでいっぱいになって、『もう私が引き取ろう』と思ったんです」