元夫の墓前で泣いた瀬戸内寂聴さん 17年密着した監督が見た素顔
画像を見る 寂聴さんと中村裕監督 /(C)2022「瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと」製作委員会

 

■元夫の墓前で涙を流して……

 

映画では、ほかでは見たことのない寂聴さんの“喜怒哀楽”が描かれている。Tシャツ姿でお酒を飲み大いに笑い、手術や入院にもめげず、笑顔でリハビリに励み、真剣なまなざしで原稿に向かい、ときに裕さんに厳しい言葉を投げかける。

 

「10年ほど前から年に5〜6回、小さなカメラを持って、ひとりで寂庵にお邪魔していました。テーブルに本を重ね、即席のカメラ台を作って、先生とお酒を飲み食事をしながらカメラを回すんです」

 

だが、撮った映像の使い道を明確に決めていたわけではなかった。

 

「100歳の誕生日にでも、映画を先生に見てもらって、怒られよう」と漠然と思っていたという。だから、映画の中の寂聴さんと中村さんはどこまでも自然体だ。

 

「僕がお酒を飲んで寝てしまって、気づいたら先生が台所で洗い物をしていることもありました。僕の中で、先生は常に笑っていて、誰に対しても偉そうにすることはありませんでしたね」

 

いつも明るく「人前では絶対に泣かない」と言っていたが、映画ではその涙が映されている。1948年、夫と3歳の娘を残して、「小説家になりたい」といって家を飛び出した寂聴さん。長年、元夫の墓参は許されなかった。

 

「娘さんからも許され、いい節目だと思われたのでしょう。2006年11月、文化勲章を受章した翌日に元夫の墓を参る先生を撮らせてもらいました。墓前で先生は『私は小説家にならなきゃいけなかったんです』と泣きだされて……。家族を捨てた以上、必ず小説家に、それも半端な物書きではダメだという覚悟があったのでしょう。文化勲章受章で報われたというか、墓前で自分が背負ってきたものをもう一度見つめなおされているようでした」

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