■支えてくれた家内への感謝も。これで明日ぽっくり逝ったら最高なんだけどな
「十分に歌って、曲作りをした人生を送れました。それで9年前、古希を迎えたとき“もう音楽で、やるべきことはすべてやりきった”と思えたんです。音楽活動をやめ、お別れするみなさんに感謝を伝えようと思って、4日もNHKホールをお借りして『生前葬コンサート』というのをやらせていただきました。無事に終わってホッとしたあたりで死んでいれば、ボクの人生は完璧だったですね。ところがね、なかなか死なないんですねえ」
一方で、体は確実にいうことをきかなくなってきている。歩くのもゆっくりだし、お風呂に入ろうと思い立ってから、実際に入り終わるまで2時間かかることも。
「歌もそうですよ。歌って疲れるなんて信じられなかったのに、今はコンサートの途中でくたびれてきちゃうんですよ。もう枯れ果てている。で、もう、今度こそいいかなっていう気持ちになって、’21年11月から、音楽家人生を締めくくるファイナルコンサート『余生、もういいかい』を始めたんです」
約2年かけて全国ツアーを展開してきた。当初の予定では、ツアー終了は昨年末だったが、
「ボクって恵まれている男で、会場はいつも満席。それでイベンターさんが『こんなにチケット売れるなら、もう一回やってくださいよ』っていう感じになっちゃって、年が明けて、ボクの79歳の誕生日である1月18日までやることに。79歳は、父親が亡くなった年齢でもあるんです」
その最後のステージは、観客席を埋め尽くしたファンからの万雷の拍手が湧き起こり、幕が上がった。ステージ中央では小椋が選びに選んだ名曲を歌い上げる。心に染み入るような声に衰えは感じない。アンコールでは、壮大な『山河』を歌い上げ、『SO-LONG GOOD-BYE』で締めくくる。
ファイナルツアーの全公演に帯同し、千秋楽を観客席で見ていた佳穂里さんにとっても、感慨深かった。
「『山河』はスケールの大きな曲。私たちの山あり谷ありの人生を振り返り、胸にジーンと来ました。最後の『SO-LONG〜』を歌いだすと、いよいよ最後だなと……。無事にやり終えてお疲れさまでしたという気持ちになって、涙が出ました。でも、小椋はずっと音楽とともにあったから、一方ではやっぱり寂しくて、終わらないでっていう思いにもなりました」
万感の思いが押し寄せたのだろう、サングラスからのぞく小椋の目尻からは、光るものが。
そして最後の曲を歌い切ると、両手を合わせ、客席へ深々と頭を下げ、確かな足取りでステージを下りた。
「これまでの音楽人生が思い出されたし、これが最後なんだなって思うと、やっぱりうるっときてしまいましたね。こんな老いぼれのために、会場が満席になるなんて、ボクは果報者です。支えてくれた家内への感謝の気持ちも持っている。これで明日ぽっくり逝ったら最高なんだけどなあ」