■「クセツヨだけどいい」「愛おしい存在」
「じゃあ、出席を取ります!」
壇上の君塚さんが点呼しようとすると、前列の男子学生が「先生、まだ休み時間です!」
「あ、そうか」と君塚さんが苦笑いでメガネを外し、腕時計を覗く。東京服飾専門学校(豊島区)で彼は週2回、モデルやファッションデザイナーを目指す学生たちを相手に映像分野の講師を務める。2023年度から依頼している経緯を、同校の野間憲治理事長が語る。
「君塚先生のADHDは、ひとつの個性です。学生には個性をパワーとして発揮できるコに育ってほしい。だから、君塚先生のエネルギー源である情熱と集中力を、学び取ってほしいんです」
学生たちの君塚“先生”評は……。
「ちょっとクセツヨだけど、その道のプロって感じでいい」
「すごい作品を撮った先生がゆっくりていねいに教えてくれる」
次世代とのコミュニケーションは、なかなか上々のようである。姉・柳瀬清美さん(63)は「千鶴香ちゃんが来てくれた」ことが安心材料だ。
「何十年と、凍ってた時代があるから、弟にはそれを、これからの人生で取り戻してほしいんです」
千鶴香さんも、「お義姉ちゃんは、いまがいちばんうれしいと思う」と目下飛躍中の夫に目を細める。
「試写会で初めて『監督夫人です』とゲストの方に紹介されました。監督の才能も含めて、ぜんぶ好き。愛くるしい、愛おしい存在です」
妻がノロケれば、姉は弟に腕をまわす。2人の女性に囲まれて、君塚さんは決まりが悪そうだ。
「この画、映り大丈夫ですかね? 読者にヘンに思われないですか?」
どうにもカメラフレームの中身が、気になって仕方ないようだ。興味の先に純真で、まっしぐら。周りに合わせようとすればぎこちなくなるけれど、それもご愛嬌で、大きな魅力だったりする。君塚匠監督が、いま再び脚光を浴びるゆえんである。
(取材・文:鈴木利宗)
画像ページ >【写真あり】妻の千鶴香さん(左)と姉の柳瀬清美さん(右)に囲まれた君塚さん(他3枚)
