「未来に“音の灯”を」ステージ4のピアニスト・竿下和美さんが患者として治療中の病院で無料コンサートを開始
画像を見る 竿下さんが理事長を務めるNPO法人が主催する第九コンサートは今年で4回目を迎える(写真:竿下さんの公式ブログより)

 

■夫は「演奏や音楽イベントでいつまでも輝いている妻の姿を見ていたい」と――

 

竿下さんの主治医で宇治徳洲会病院呼吸器内科の千原佑介部長はこう語る。

 

「肺腺がんの患者さんで、高齢でもあり相談のうえ治療はしない方針の方がいました。ところが『音の灯コンサート』で竿下さんの演奏を聴いたことで気持ちが変わったのか『やっぱり治療します』と。今では、がん腫瘍はどんどん小さくなっています。ほかにも、彼女の演奏を聴いて、治療を頑張ろうという人もいらっしゃいます。

 

患者さんの気持ちを前向きにさせることは、僕ら医者でもなかなか難しい。同じ病気で頑張っている竿下さんだからこそ、患者さんの心を動かせるのでしょう」

 

竿下さんには「音の灯コンサート」の直後から新たな活動が加わった。毎日インスタグラムでピアノ演奏の配信を始めたのだ。

 

「コンサートに行けなくて残念だったという入院患者さんがいたことを看護師さんから聞いたのがきっかけです。それなら毎日、演奏を投稿したら病室から出られない人でも音楽が楽しめると思って。毎日配信することで、明日はどんな曲かなとわくわくした気持ちになってくれたらうれしいですね」

 

そんな竿下さんについて、社会保険労務士となった夫の延日呂さんがこう語る。

 

「ステージで演奏したり、音楽イベントで先頭に立ったりする姿がいちばん輝いています。たしかに軽い病気ではありませんが、いつまでも輝いている姿を見ていたいです。たとえ息を引き取るときがきたとしても『昨日まで、舞台でピアノを弾いていたんやで』というような……。もしかしたら、がん細胞と一緒におばあちゃんになるんじゃないかとも思っています」

 

病という不安を抱えた人の心に、88の鍵盤が生み出す音色で灯りをともしていく竿下さんはこんなことを語る。

 

「ピアノの音色は、そのときの自分の心境にいいように刺さる言葉となって聞こえてくることがあります。今、元気になれるはずなのに、前を向けない人はけっこう多いと思います。音楽は、そんな人の背中をちょっと押してあげることができるのです。

 

現在、NPO法人では子どもからお年寄りまでの全世代を対象に市民が歌い演奏する年間100以上の催しを手がけています。この京都南部・山城地域に音楽が生活とともにあることが少しずつ根づいています」

 

7月24日に第2回「音の灯コンサート」が宇治徳洲会病院のロビーで開催されることも決まった。“音の灯”がともせる限り、竿下さんの挑戦は続く。

 

(取材:日野和明/文:山内太)

 

画像ページ >【写真あり】京都市立芸術大学時代の演奏会で。卒業後は公民館や高齢者施設などへ出向き演奏を届ける活動に力を入れるように(他5枚)

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