映画『盤上の向日葵』のイベントに登場した小日向文世。いちばんの推しを聞かれ「家族」と(撮影:加治屋誠) 画像を見る

「松野家は没落した武家でとても貧乏ですけど、しじみ汁を家族で飲んで大笑いしている。とても愛すべき温かな家族だなと思います」

 

明治時代に来日して『怪談』などの名作を生み出した小泉八雲と、彼を支えた妻の小泉セツがモデルのNHKの連続テレビ小説『ばけばけ』。ヒロインの松野トキ(髙石あかり)の祖父で、元上級武士だった松野勘右衛門を演じているのが、小日向文世さん(71)だ。

 

勘右衛門は武士の格を何より尊び、明治になっても髷を切らず、トキの夫の銀二郎(寛一郎)には剣術を厳しく指導。

 

その一方で、孫のトキにはめっぽう弱く、溺愛し、彼女の幸せを願っている。

 

「勘右衛門の時代との価値観のズレや、彼がどう変化していくのかを楽しんで演じています。

 

髙石さんや息子の司之介役の岡部(たかし)さんとは初めてご一緒しますが、義理の娘役の池脇(千鶴)さんも交えて撮影の合間にゆっくり話ができて楽しいです。でも銀二郎はかわいそうだよね(苦笑)。『ばけばけ』は家族の愛の物語です。それが、松野家の温かさとして伝わるといいな。僕もね、家族がいちばんなんです」

 

70代に入った今も、映画ドラマにと、八面六臂の活躍を見せる名脇役の半生を振り返ろう。

 

 

小日向さんは、北海道の三笠町(現・三笠市)で大正生まれの両親のもと、’54年、3きょうだいの末っ子として誕生した。

 

「明治生まれの母方の祖父が三笠町の町長を務めていました。桂沢ダムの創設者で、家族でダムを見に行って写真を撮ったのを覚えています。僕はその祖父の家で生まれたんです。

 

市町村合併によって初代市長選がおこなわれたとき、母が車の中からマイクを持って『お願いします~』と、言っていた記憶が残っていますね。でも、うちの祖父は負けちゃったの(苦笑)」

 

彼の実父はもともと禅宗の僧侶だったという。

 

「戦後になると、三重県大杉谷の住職を離れ還俗して、父は母の故郷で市役所勤めを始めました。

 

ただね、お寺の修行をした人だから、7歳上の兄と、4歳上の姉にはすごく厳しくて。でも末っ子の僕は『ふんちゃん』と呼ばれて、父にも母にも怒られた記憶がほとんどありません。

 

小学校から帰ると父が、僕の足の裏の汚れを拭いてくれるほどかわいがられていました。父は家が大好きな人でした。

 

役所の仕事が終わると直帰して、丹前を着てテレビの前に座っていましたね。趣味を持たない人で、食事は家で食べるのが当たり前。僕が家に居るのが好きなのは父譲りです(笑)」

 

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