「和実さんは初日から立派でしたよ。何十年もやってきた私よりずっと(笑)」 そう笑うのは先代の奥さんの佳代子さん。現在の3代目主人、仁則(まさのり)さんの母にあたる。謙遜されているが、その上品でおっとりとした物腰は、このお店に流れる癒し系のオーラと同じ色。 「あの子は次男だったし、そんなそぶりも見せなかったから、お店を継ぐと言った時はビックリしましたね。うれしかったですけど」 仁則さんについて、そう語る佳代子さん。先代からの味の継承について質問をしたら、意外な答えが返ってきた。 「ラーメンに専念しはじめたのは、むしろ息子の代からだと思います。主人はとんかつとか甘味とか、いろいろ手広くやりたがった人でしたから。私は今の方がおいしくなったと思う(笑)」 創業時の昭和26年当時は、ラーメンや食事も出す甘味処として営業し、のちにもう1軒、とんかつのお店も出していたという「一冨士」。“おばあちゃん”の愛称で親しまれていた初代の奥さん、静江さんは平成10年に亡くなるまで、お店に心血を注ぎ続けたという。 「おばあちゃんはすごい働き者でしたね。とんかつのお店を閉める時も、どうしてもラーメンのお店だけは残したいって頑張った。お店のこと、心から大事にしていたと思います」 “おばあちゃん”こと初代の静江さん。“お母さん”の佳代子さん。そして現在の“おかみさん”の和実さん。厨房で汗を流す男たちは勿論だが、「一冨士」には女性ならではのやさしさ、強さが流れている気もする。和実さんは言う。 「主人とまだお付き合いをしていた頃、改装前のお店に初めて来た時、先代とお母さんが働く姿を見て、“夫婦で頑張っているお店なんだな”って思ったんです。いずれ自分もそうなるんだろうなって、スッと受け入れることができました」