「材料費30円なんて、絶対に無理やと思いましたよ」と語るのは、龍谷大学農学部食品栄養学科の学生・大橋明希子さん。同級生の柴田佳幸さんも「たった30円で昼メシなんて作れるわけないって思った」と笑う。
彼らが挑戦したのは「材料費1食30円のランチを作る」という食品加工実習。1、2組計77人の学生たちが16班に分かれて参加した。実習を課した同学科の伏木亨教授は、その狙いをこう話す。
「学生たちの就職先となる食品業界は商品開発競争が苛烈で、どこのメーカーも材料費を10銭、5銭という単位で限界まで削っています。それを学生たちに体感してほしいと思いました」
伏木教授は大手スーパーマーケットから、取り扱っている全食品のグラムあたりの単価表を特別に提供してもらった。学生たちは、それをもとに、肉や野菜はもちろん、調味料や油にいたるまで、全食材をグラム単位で計算しながら献立を練った。
「特売品や、もらった食材は使用不可です。すべて単価表どおりの正価で購入することを基準としました。それで10人前300円以下、つまり1人前30円以下の軽めのランチの副菜、おかずを作ってもらいました」(伏木教授)
レシピの企画、試食と試行錯誤を繰り返し、最終的には実際に調理したものをクラスごとに全員で試食し、投票で1位のメニューを決めた。
「安ければいいわけじゃありません。味もボリュームも重要。食べた人に満足感を与えられないと、投票してもらえませんから。いかに安く、しかもおいしいランチを作るか。学生たちは皆、うんうんうなって、四苦八苦してましたね」(伏木教授)
結果、参加した16班すべてが1食30円以下を達成。そして、見事1組のナンバーワンに選ばれたのが「ヘルシー! あんかけ鶏肉団子&おすまし」。考案したのが冒頭の大橋さん、柴田さんたちだった。
実習を通じ「発見がいくつもあった」と話す2人と伏木教授に、激安レシピを作る“鉄則”を聞いた。
【1】ミンチはむね肉から自分で手作り
「鶏肉も、やっぱりひと手間かかったミンチは高いんです。むね肉と比べたら1グラムで0.3円も高い。最初は『たかだか0.3円』とも思ったんですけど。今回、10人前で110グラムの鶏肉を使ってるので、肉だけで33円、1人前当たり3.3円も差額が出ます。迷わずむね肉を選びました。あとは、ひたすら自分たちで切り刻み、ミンチにしました」(大橋さん)
【2】顆粒だしをおさえた分は醤油で風味付け
「すまし汁に顆粒だしを使ったんですけど、グラム当たりの単価が3.5円と桁違いに高いんです。だからできるだけ削って削って、その代わりに何を入れたら味がよくなるかで悩みました。醤油はグラム当たり0.19円で、0.12円の塩より7銭も高いんですけど、料理に風味をつけてくれるので、顆粒だしをおさえた分は醤油で味付けしました」(柴田さん)
【3】卵と油をマヨネーズで代用
別の班が作った「ケークサレ」。見た目もかわいらしく、大橋さん、柴田さんとも「正直、ここが優勝すると思ってた」というほどの逸品。
「物価の優等生なんていわれた卵ですが、単価は1個20円と、今回のようなシビアな原価設定だと簡単には手が出ない。油も決して安くない。そこで、この班は卵と油をマヨネーズで代用するという工夫をしたんですね。ふっくらと焼きあがっていて、本当においしかった」(伏木教授)
【4】弱火でじっくり焼くことで油を節約
「油も高いんです。だから僕たちの班では、油を使っていません」(柴田さん)
「肉から出てくる油頼み。だから弱火でじっくりと焼きました。鶏むね肉ってあんまり油が出ないんですよ(苦笑)。焦げつかせないように気を使いました」(大橋さん)
【5】最安値の豆腐でボリュームアップ
「肉だけだと、どうしても団子が小さくなってしまうので、比較的安価な豆腐で、かさを増しました。あと、やっぱり安価なもやしも、細かく刻んで団子の増量材に使いました」(柴田さん)
「食べた人が満足感を得るために、タンパク質は重要です。しかし、肉や魚は高価なので、もっと安いタンパク質=豆腐を使用して『豆腐ステーキ』などを作った班は多かったですね」(伏木教授)
【6】イワシは魚の中では激安レシピ向き
「魚ではイワシが唯一、価格的に使えそうな食材で、一瞬使おうかどうか迷ったんです。でも、くさみを取るのに、塩を大量に使ったり、酢でしめたりしたら結局、高くつくかもしれないと思い、諦めたんです」(柴田さん)
「そこをトライして、2組で第1位になったレシピが『イワシのお寿司』でした。鮮度のいい脂の乗った上物が入荷したという幸運にも恵まれたようですが、本当においしかった。これが30円でできるなら、そのまま回転ずし店が出せるんじゃないかと思うほどでした」(伏木教授)
伏木教授は、主婦ならもっと安いレシピも可能だという。
「今回はルール上、使えなかった特売品などを活用すれば、もっと安い原材料費で作れるんじゃないでしょうか」(伏木教授)