■絶滅危惧種がスーパーに並んでいるのは一体なぜ?
そもそも絶滅危惧種なのに、なぜスーパーで売られるなど簡単に食べられる状況なのか。
「一般的な感覚でいうと、『絶滅危惧種なら、こんなにスーパーに並ばないのではないか?』と考えるかとおもいます。しかし、うなぎには、食べてはいけないという規制はないのです。そして、消費者はうなぎを求めています。消費者は食べたい、禁止するルールもない、ですからスーパーは提供している、ということです。また、絶滅危惧種が消費されていること自体がものすごくおかしいわけでもありません」(海部さん・以下「」内同)
絶滅危惧種に指定されている生き物だからといって、食べてはいけないということにはならないのだという。
「絶滅危惧種には、基準が複数あります。たとえば、個体数がすごく少ないから絶滅危惧種という場合もあれば、たくさんいても急激に減っているため絶滅危惧種に区分されることもあります。
ニホンウナギの場合は急激に減っていることを理由として絶滅危惧種に区分されています。しかし、個体数は多く、おそらく数百万の単位と考えられることから、消費を規制する段階にはありません。これに対して、個体数が少ない生物は消費が規制される場合があります。例えばアマミノクロウサギはニホンウナギと同じように絶滅危惧種に区分されていますが、個体数が少なく、現存する個体数は数千頭です。アマミノクロウサギは”種の保存法”という法律の定める国内希少野生動植物種に指定され、捕獲が規制されています。ニホンウナギは”絶滅危惧種”ではありますが、”希少種”ではないのです」
では、うなぎは数が多いので、絶滅することはないのだろうか?
「数が多くても絶滅する生き物はいます。最も有名な例はリョコウバトというアメリカの鳥でしょう。一説には50億以上と、かつてアメリカ合衆国において世界最大級の個体数を誇っていた鳥ですが、ヨーロッパからの移民が流入したのち100年あまりで激減し、1914年に絶滅しました。人間の開発による環境変化と狩猟の両方が影響したと考えられています。ですので、数が多いから大丈夫とはいえません。
特に、うなぎの場合には増える要素がありません。適切な管理がなされてないし、生息環境の改善も進んでいない。ですから、このまま減っていく以外の将来を想像することが難しいのです。
現在ニホンウナギが減少しているということは、うなぎが増える速度より消費速度の方が上回っているということです。ニホンウナギ資源を回復させ、持続的に利用するためには、再生産によってうなぎが増える速度を上げつつ、消費する速度を減らす必要があります。うなぎが増える速度を上げるためには河川や河口域など生息域の環境を改善することが重要です。消費する速度を下げるには、漁獲量の制限が必要になります」
特にうなぎを食べて良いかどうかについては、この”適切に管理されていない”という点が大きな問題なのだと言う。
「現在のところニホンウナギは適切に管理されていません。たとえば、消費する速度を減らすためには、採るうなぎの量を規制する必要がありますが、この”漁獲上限量”が、結局そこまでは採れないという過剰な量に設定されているのです。
日本、中国、韓国、台湾の4カ国では”池入れ制限量”とよばれる、養殖のために養殖池に導入するシラスウナギの量の上限を78.8トンまでに抑えるよう、2014年に合意しました。しかし、現状78.8トンのシラスウナギを獲ることはできません。実際の4カ国・地域の池入れ量合計は、池入れ量制限導入後の平均で40トン程度と、制限の半分にとどまっているのが現状なのです。
つまり、現在の池入れ量制限にはシラスウナギの採捕量を削減する効果がないのです。上限が大きすぎるので、実質“採り放題”ということになります」