「今年、国立感染症研究所は『新たな遺伝子型のノロウイルスGII17が流行する』と発表しました。同研究所が、流行前にノロウイルスに関して注意喚起をするのは極めて異例のこと。それほど新型ノロウイルスが大流行する危険性があると警戒しているのです。十分に気を付けねばなりません」
こう話すのは、おおたけ消化器内科クリニック(東京・赤坂)の大竹真一郎院長。平成24(’12)年12月にも新型のGII4というノロウイルスが大流行した。その際には、病院や社会福祉施設、学校などでの集団感染も数多く起きた。大竹先生は、今年も同様の事態が起こるのではないかと懸念している。
「新型ノロウイルスは、特に毒性が強い、致死率が高いなどの危険性が高いわけではありません。発症した際の症状は個人差があるものの、嘔吐、下痢、発熱など、従来のノロウイルスと変わりません。新型というのは、今まで人類がかかったことがない新しいウイルスということ。人間はそのウイルスに対する抗体を持っていないため、感染する人が多いと予想されるのです」
食中毒という大きな枠組みで見ると、湿気のある暑い時期には細菌性胃腸炎が多い一方で、11月〜3月の寒い時期には、ウイルス性胃腸炎が流行する。そもそもウイルスは寒さや乾燥に強いため、冬場に猛威を振るう。その中でも、患者数では圧倒的にノロウイルスが多いという調査結果が出ているのだ。
それでは、感染を未然に防ぐにはどうしたらいいのだろうか?感染予防のためには、とにかく丁寧な手洗いが必須だと大竹先生は言う。しかし、水で濡らしただけの中途半端な手洗いや、丁寧に洗った手をぬれたまま放置するのは厳禁だ。ウイルス自体は乾燥に強いが、水分にも付着してしまう。ウイルス単独で空気中に浮遊しているよりも、水分に付着し霧状になって空気に舞い上がるほうが、人に感染しやすくなるからだ。
「食事前と調理前は手洗いを徹底しましょう。アルコール消毒はインフルエンザやほかの細菌対策にはなりますが、ノロウイルスには効果がないため、過信しないようにしましょう」
家族間での感染を防ぐためには、ノロウイルス感染者の吐瀉物やふん便など汚物の処理を正しく行うことがとても重要になる。ノロウイルスの失活化には、塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)が有効だ。大竹先生は、目安として、洗面器1杯の水にキャップ半分ほどの塩素系漂白剤を入れた薄め液で汚物のあとを拭き取ることをオススメしている。
「汚物はペーパータオルなどで集め、ビニール袋に入れます。その中には、洗面器いっぱいの水にキャップ1杯ほどの塩素系漂白剤を入れた水を流し込んでから捨てましょう。塩素系漂白剤は刺激が強いので、ゴム手袋をしてください。気分が悪くなったり目がチカチカすることもあるので、汚物を拭き取った後は、しっかり換気もしてくださいね」
また、感染者本人は、症状が治まっても、2〜3週間はウイルスを保持しているともいわれている。家庭内感染を防ぐために、その期間は十分に配慮しなければならない。
「トイレで大便をして流す際、感染者は便器のフタを閉めてから流してください。フタを開けたまま流すと、水の勢いで約50センチ四方に細菌が飛び散るという実験結果があり、ウイルスでも同様だと考えられています」