image

 

「北京などの大気汚染は本当に深刻。大気汚染物質は工場のばい煙や自動車の排ガスに含まれるすすが中心で、その大きさが2.5ミクロン以下のものをPM2.5と呼びます。砂漠地帯の砂嵐で上空高く舞い上がった砂は東風に乗り、まず中国の大気汚染地域の上空にやってきます。ここで黄砂の粒子にPM2.5が付着。黄砂の鉱物成分が化学変化を起こし、より毒性の強い発がん性が生成されるのです」

 

こう話すのは、微粒子が体に取り込まれた際の健康被害にくわしい『PM2.5、危惧される健康への影響』(本の泉社)の著者・嵯峨井勝先生(青森県立保健大学名誉教授)。嵯峨井先生は、中国の大気汚染物質、PM2.5と結びついた黄砂が“猛毒黄砂”となり、もうすぐ日本にやってくると警鐘を鳴らす。

 

黄砂は、モンゴルや中国西部の砂漠地帯の砂が、砂嵐で上空高く巻き上げられ、大量に西から東へ移動する現象。とくに4〜5月は中国大陸から東へ吹く偏西風が日本上空を吹き抜けるコースをとるため、空が黄色く染まるほど。西日本を中心に、霞んだ空を見た経験をお持ちの人も多いだろう。

 

「日本に飛来する黄砂には0.1ミクロン以下のナノ粒子といわれるサイズの粒子も含まれています。大気汚染物質が付着した黄砂の粒は、小さければ小さいほど健康被害が大きくなる。命に関わる事態です」(嵯峨井先生・以下同)

 

黄砂の微粒子が体に侵入することによって生じるのが、花粉症と似たアレルギー症状。また気管支ぜんそくを引き起こす要因ともなる。しかし、嵯峨井先生はさらに深刻な命に関わる影響を指摘する。

 

「血管内に侵入した粒子を、体内のさまざまな組織や血管壁内でマクロファージや白血球が排除しようと攻撃します。その時に使うピストルの弾として活性酸素を大量に発生する。この活性酸素がさまざまな疾患を引き起こすのです」

 

猛毒黄砂が体内に侵入することで、引き起こされる病気を嵯峨井先生が解説してくれた。

 

【肺がん】

 

「発がん性物質を含む黄砂を吸い込むと、そのまま肺まで届いて、そこで活性酸素が発生し、それが肺の細胞の遺伝子を傷つけて、がんを発症させます」

 

【心筋梗塞・脳卒中】

 

「血液中でも異物を排除しようと、白血球が大量の活性酸素を発射する。この活性酸素は悪玉コレステロール(LDL)を酸化させ、動脈硬化を引き起こす。この結果、心筋梗塞や脳卒中が起こるのです」

 

【精子減少】

 

「血液中に溶け出した黄砂がたまりやすいのが、男性の精巣。女性の卵巣にはたまりにくい。黄砂に付着しているすすや化学物質のせいで、精巣で炎症が起こり、精子が減少してしまいます」

 

【認知症】

 

「黄砂の中にはごく微小な0.1ミクロン以下(ナノ粒子)も存在します。これが鼻腔粘膜に付着すると、そのまま粘膜を透過して、脳に入り、そこで活性酸素を発生させ、脳細胞を傷つけます。昨年、アルツハイマー病の患者さんの脳を分析した調査で、前頭葉の組織1グラムあたり数百万個のナノ粒子が見つかり、症状と関連があるのではないかといわれています。アルツハイマー病の発症要因のうち、遺伝的要因は5%以下。ほとんどが環境など外部要因であることを考えると、黄砂を含めたすすなどのナノ粒子が、認知症を引き起こす可能性は否定できません」

 

PM2.5と合体した猛毒黄砂。外出時にはマスクを着用し、また不要不急の外出を控えるなど、備えだけは万全にしておきたい。

関連カテゴリー:
関連タグ: