昨年10月、アイドルグループ「King&Prince」のメンバー岩橋玄樹(22)がパニック障害の治療に専念するため休養。翌11月には「Sexy Zone」の松島聡(21)も、同じ病いで療養に入ることを発表した。
相次ぐ休養宣言でにわかに注目が集まった「パニック障害」だが、過去には多くの有名人が病いと闘っていたことをカミングアウト。決して、珍しい病気ではないのだ。
「がんのように明確な診断基準がないため、患者の特定が難しいのが、この病気の厄介なところです。ただ、ストレスや自律神経の乱れが発症の引き金になることが少なくないため、ストレス社会の現代では『予備群』も含め、患者は増えているのでは、と考えられます」
そう語るのは、あゆみクリニックの宮沢あゆみ院長。アメリカの調査でもパニック障害の有病率は増えていると推測され、100人のうち5人近くがなるというデータも(NSC調査)。しかも女性の患者数は男性の2.5倍に上るというから(同調査。いずれも厚生労働省ホームページより)、決して人ごとではない。
長いパニック障害との闘いを克服した経験を持つ、女優の大場久美子さん(59)。克服までの道のりを聞いた。
「私の場合は動悸と息苦しさが主な症状でした。40歳手前ぐらいから、楽しいときでも苦しくなるので、なぜだろう? と。でも、検査を受けても何も異常が見つからず、ドクターショッピングに近い状態が続いていたんです」(大場さん・以下同)
原因もわからないまま、数年間苦しんだという大場さん。その後、’03年にパニック障害などの疾患に詳しい医師に巡り合い、ようやく診断されたという。
「原因がわからない不安のほうが大きかったので、診断されたときはむしろうれしかったです。病気とわかったのだから、治そうと」
現在、パニック障害の治療には、薬物療法のほかに、偏ったものの見方を修正し、行動を変えていく『認知行動療法』も重要とされている。しかし、当時の大場さんが医師から提案されたのは「休養して入院し、お薬を飲みましょう」というものだった。
「でも、私にはその選択肢はなかったんです。入っている仕事をキャンセルすることなんてできないし、一人暮らしだったので収入が必要でした。軽い精神安定剤を処方されたこともあったのですが、もともと風邪薬も慎重に飲むほどで、薬が効きすぎる体質なのか、めまいで起き上がれなくなったこともあって、飲みませんでした。何より芝居が大好きだったので、休業して入院するなんて、とても考えられませんでした」
闘病を見守った事務所の代表いわく、大場さんは「ど根性の人」。試行錯誤しながら、自力でパニック障害に向き合っていった。
「たとえばパニック障害だと、発作が怖くて電車に乗れなくなることが多いのですが、私は乗れないと決めつけず、どうやったら乗れるかを考えました。発作が出たときに、誰にも見つからずに座り込めるトイレの場所を把握しておくだけでも、安心材料になりました。ほかにも、予期不安(発作を繰り返すと、『また発作が起きたらどうしよう』と強い恐怖感を抱くようになる)に襲われたときに、すぐ誰かとつながれる携帯電話も大きな支えでした。そうやって自分の中の『安心アイテム』を増やすことで『できない』から『できるかもしれない』が増えていく。いま思えば、私は自然と『ものの見方を変えていく』ことをやっていたのだと思います」
だが、当然闘病には苦労も――。
「テレビ番組の公開収録のときなどは、たくさんのゲストもお客さまもいる抜け出せない状況に、息苦しくなってしまうこともありました。そんなときは、自分を思いっきりつねったりして、やり過ごしていました」
それでも階段を上るように、症状は改善されていった。支えになったのは、生きがいである仕事を続けられたこと。そこには事務所の全面的なサポートがあった。
「自宅から仕事場までの間にある、あらゆるトイレの場所を調べてくれたり、収録中に発作が起きて歌えなくなった場合に備えて後輩をたくさん連れてきてくれたり。『何があっても大丈夫』という環境を整え、見守ってくれました」
こうして、テレビで公表するころには「克服」していたと振り返る。もちろん、これは大場さん個人の体験で、パニック障害の克服には専門家のサポートが不可欠だ。
「本当の認知行動療法は、まず、心理療法士やカウンセラーとともに進めていくのが一般的です。お医者さんに薬を処方していただくことが必要な時期もあると思います。ただ、きちんとカウンセリングを受けて、認知のゆがみを修正する必要性があればそれを行うことで、病気に限らず、その後の人生も生きやすくなると思います」
大場さん自身も、闘病経験を生かして心理カウンセラーの資格を’08年に取得。現在は女優業と並行して、さまざまな人の心の悩みに耳を傾ける日々だ。
「パニック障害が再発する可能性は、ゼロとは言い切れません。一度体験して脳裏に刻まれたので、『完治』ではなく『克服』。でも、『どうしよう』を『こうしよう』に変える自分の中の安心アイテムがあるので、もう怖くはありません。パニック障害は必ず克服できる。私はそう、信じています」