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「日ごろから、バランスのいい食事や適度な運動をすることを心がけ、積極的に社会参加することなどは、認知症発症リスクを下げるために有効かもしれません。久山町研究を含むさまざまな疫学調査データから示されています」

 

そう話すのは、九州大学大学院医学研究院教授で医学博士の二宮利治先生。“久山町研究”は、福岡市の北部に位置する糟屋郡久山町(人口約8,900人)の住民を対象に、’61年から長年継続している生活習慣病の大規模な疫学調査だ。

 

脳卒中や高血圧、糖尿病といった生活習慣病の調査に加え、’85年からは、65歳以上の住民を対象とした認知症の調査も開始した。6〜7年ごとに追跡調査を行い、日ごろの食事や生活習慣が認知症の発症とどのような関連があるかを調べているのだ。

 

「久山町研究の特徴は、町ぐるみで調査に協力してくれているということ。そのため、65歳以上の住民における認知症の調査の受診率は90%以上と非常に高く、さらに、調査にご協力いただいた99%の方の健康状態を毎年追跡しています」

 

このように精度の高い認知症の疫学調査は、世界でほかに例がなく、注目を集めている。久山町研究の成績を基にした推計によると、’25年には日本で認知症患者が約700万人にのぼり、65歳以上の5人に1人が認知症になるという。

 

とはいえ、いまだ特効薬もなく、未解明な部分が多い認知症。そこで今回、久山町研究の研究責任者である二宮先生に、現在までの調査結果から得られた認知症の予防法を聞いた。

 

■歯の健康を保つ

 

「過度なダイエットは避け、筋肉や骨のもとになる良質なタンパク質を、大豆や卵、魚などでしっかりとってください。筋力や骨密度が低下すると、足腰が弱まって活動が鈍ります。その結果、脳の働きが衰え、認知症のリスクも高まるのです。また、食事をしっかりかむためには“歯”の健康を保つことも必要です」

 

栄養素の取り方も重要だ。

 

「主食はカップ麺で、足りない栄養はサプリメントで補う、という方もいますが、栄養素は食品からとるのが好ましいと思います。外食でもかまいませんが、バランスを考えてメニューを選んだり、献立を考えたりする行為そのものが、生活にハリをもたらし、認知症のリスクを低下させることにつながります」

 

少なめにしたほうがいいのは、米と酒だ。

 

「米の摂取量と、認知症の発症に明らかな関連性が見られたわけではありません。しかし、一定の摂取カロリーのなかで、米の摂取量が多いほど、予防効果があるほかのおかずの量が減ってしまい、栄養バランスが崩れることになります。ですから、米の量が少なめで、副菜を多く食べている人のほうが、認知症になりにくいという結果が得られたと考えています」

 

■生きがいを持つのがいちばん。お酒のリスクも減る

 

お酒に関しては、「飲めば飲むだけ脳が萎縮する」と言う研究データもあるというが……。

 

「脳の病的変化や萎縮が進んでいても、認知症の症状が見られない人がいることが海外の調査から報告されています。また、人とのコミュニケーションをとり、社会活動や趣味のサークルなどに参加するなど、生きがいを持つことが脳にいい影響を与えることを示唆する報告もみられます。脳には耐久性があって、脳を継続的に刺激することで、この神経細胞のルートはダメならこっち、というように脳の働きを代償する機能があるのではないかと思っています。飲酒と認知症の関係はまだ明らかになっていませんが、お酒が人生の楽しみという方は、一日1合程度なら飲んでもいいかもしれません。ただし、飲みすぎは絶対にダメですよ」

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