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友人から「なんだか声が低くなったんじゃない?」と言われた、最近カラオケで高音が出なくなった……、そんな“声の異変”にご用心。ただの加齢現象だと放置せずに、きちんと対処することが健康寿命を延ばすことにつながりますーー。

 

「今の時期、コロナ禍で外出を自粛している人も多いでしょう。しかし、巣ごもりであまりしゃべらない生活が長引くと、声帯の機能が衰えてきて、声がだんだんかすれてきてしまいます。1人で過ごす時間が増えてきたなと思ったら、生活のなかで意識的に声を出すように心がけましょう」

 

そうアドバイスするのは、東京ボイスクリニック品川耳鼻いんこう科院長の楠山敏行先生。楠山先生によれば、特に閉経前後の女性は注意が必要なのだという。

 

「年齢を重ねると声の張りがなくなり、『聞き取りづらい』と言われることが増えてきます。体の老化が始まる30代から声帯を取り巻く筋肉は衰え始め、更年期以降でそれが加速します。女性は閉経前後に女性ホルモンが減少することで、めまい、動悸、息切れ、のぼせといった更年期障害の症状が出てきますが、同時に声にも異変が起こります。血流が悪くなることで声帯がむくみ、声が低くなるのです。“大人の声変わり”がみられるのはこのためです」(楠山先生・以下同)

 

のどは、空気を肺に送り、肺から空気を出す「気管」と、食べ物や飲み物を飲み込む「食道」につながっていて、とても複雑な動きをする。

 

「女性ホルモンは、血流をよくして声帯のむくみを抑えていると同時に声帯の粘液分泌を良好にしています。加齢とともに声のツヤがなくなってくるのは、女性の場合、女性ホルモンの減少が声帯のむくみを起こす以外に、声帯の潤いが不足していることが原因です。声帯は乾燥すると軟らかさが低下するので、規則的で滑らかな振動に影響し、雑音が混ざった、かすれたような声になってしまうのです」

 

のどはもう一つ、「飲食物を飲み込むとき」の動きがある。

 

「声帯がピタリと閉じていれば問題ありませんが、閉じ方が不十分だと、食べ物や飲み物がときどき気管に入ってむせることが増えてきます。これを『誤嚥』といい、誤嚥が重なると『誤嚥性肺炎』を招いてしまいます」

 

「誤嚥」のほかにも、「運動したわけでもないのに息切れがする」というのも、声帯の閉じ方が悪くなったことで起こる変化かもしれない。

 

また、意外かもしれないが、腕の力と声帯は関連していて、「重いものを持つとき、力が入らず踏ん張れない」といったときも、声帯が衰えているサインだという。

 

「上腕に力を入れるときは、胸郭の筋肉も使います。そのため、重い荷物を持ち上げようとするとき、胸郭が安定していないとしっかり持ち上げることができません。声帯をしっかり閉めて胸郭を安定させられることで、踏ん張ることができ、腕にも力が入るのです。また、加齢とともに全身の筋肉が衰える“フレイル”が進むと、声に関連する筋肉もやせて、声帯が閉まらなくなります。このように、声帯は全身と関連しています。そのため、“声変わり”を放置していると、誤嚥性肺炎だけでなく、転倒や骨折など、健康寿命を脅かすリスク要因にもつながってしまいかねないのです」

 

生活習慣の面でも、ふだんから「たばこを吸う」「お酒が大好き」という人は、声帯にダメージを与えやすいので改めたいところ。

 

“老け声”になったからといって、あきらめるのはまだ早い。ダイエットやフレイル予防のために行う筋トレと同じように、声帯もトレーニングによって鍛えることが可能だ。

 

そこで今回、楠山先生におうち時間に簡単に取り組める4つのトレーニングを教えてもらった。“老け声”を若返らせるだけでなく、加齢に伴う「誤嚥」のリスクを防ぎ、嚥下機能を高める効果もあるそう。

 

【の↑の↓発声法】

(1)背筋を伸ばして立ち、口をすぼめて「のー」と伸ばして、低音から高音へ上げながら発生する。
(2)そのまま息継ぎをしないで「のー」と伸ばして、今度は高音から低音まで発声する。20秒を1セットで3セット行う。

 

「声帯を鍛えるのに有効なのは歌うことです。日ごろからカラオケで歌う習慣がある人は声帯が衰えにくいのです。ふだんからあまり歌う機会がない人は、さけぶようなキーで歌うと逆にのどを傷めてしまうので、医療現場でも取り入れられている『の↑の↓発声法』をやってみましょう。『のー』と声を出すとき、低い音から少しずつ音階を上げていき、高い音まで出しきります。その後、息継ぎをせずに、反対に高い音から低い音まで出します」

 

「の」は“鼻音”で、のどを閉めないで空気を鼻へと抜いて音を共鳴させる。声帯の筋肉だけでなく、呼吸、声帯の振動など総合的に鍛えられるという。背すじを伸ばして行うようにしよう。

 

【ストロー発声法】

(1)背筋を伸ばしてストローを口にくわえる。指と口先で支えて噛まないようにする。はじめのうちは太めのストローだと行いやすい。
(2)おなかに力を入れて「うー」と声を吹き込みながら低音から高音に伸ばす。
(3)息継ぎをしないで、そのまま今度は高音から低音に声を伸ばす。10秒を1セットで3セット行う。

 

腹筋を鍛えて体幹を強くするのが「ストロー発声法」。口よりも直径の細いストローを使うと、一度に多くの息を吐くことができないため、自然と腹筋に力が入る。

 

〈応用編〉

細いストローの先端を水を入れたペットボトルにつけて「う〜」と発声し、泡がブクブク出るようにする。慣れてきたらストローを底のほうに近づけて行う。10秒×3セット。

 

【10分朗読】

新聞でもお気に入りの詩でもいいので、毎日10分間声を出して読む。アナウンサーになりきって発声すると、ふだん使わない声帯の筋肉を鍛えるトレーニングに。10分×1セット。

 

「最近出た論文では、高齢者に10分間朗読をしてもらったところ、発声機能が改善したという結果が出ました。雑誌や新聞などの記事を、アナウンサーになりきって毎日10分朗読してみましょう。ふだんの会話とは異なる発声をすることで、声帯の筋肉を鍛えることができます」

 

【おふろでカラオケ】

カラオケによく行く人は声が老けないという。頻繁に行くことができなくても、おふろで代用できる。浴室内は湿気があるのでのどを痛めないというメリットも。湯船につかりながらゆったり1曲トライ。

 

「浴室は加湿されているので声帯にもやさしい。ぼそぼそと話しても声帯のトレーニングにはならないので、周囲に気兼ねなく歌える『おふろでカラオケ』もおすすめしています」

 

声帯の筋トレを毎日続けると、早ければ2週間程度で効果が現れてくるそうだ。けっして無理はせず、コツコツ続けてみよう。

 

「女性自身」2020年12月29日号 掲載

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