耳慣れない病名だけに、今回の報道で初めて知ったという人もいるのではないだろうか。しかし、日本の医療従事者の間では警戒すべき病気として認識されているという。
「この病気にかかった患者さんが、犯罪など反社会的な行動を起こす危険性があるからです。
それは“脱抑制”という症状で、本能的な衝動を抑える理性が働かなくなり、異常行動を起こしてしまうのです。たとえば、人のものを盗んだりしても、なぜ悪いのかがわからない。万引きがいちばん多いのですが、窃盗、放火といった犯罪行為の背景に、この病気が関わっている可能性もあるのです」
実際に前頭側頭型認知症が原因で犯罪が起きた例もあり、40代の若年層~高齢者が突然反社会的な行動に走ったときには、専門医らはこの病気の関連も疑うようになったのだという。
「米国の神経学会では、以前から前頭側頭型認知症を犯罪の原因分子として考えるように警告を出していました。それだけ社会的意味を持つ難病なのです」
治療法が確立されていないとはいえ、現状ではどのような対症療法が行われているのだろうか。
「症状によって、アリセプトなどのアルツハイマー用の薬や抗うつ薬、ほかに抗精神病薬などを使用した治療が行われています。投薬治療により、行動面の改善が見られたという報告もあります」
欧米では前頭側頭型認知症の治療薬の開発が進められていて、すでに治験が始まっているという。
若年患者が多い難病だけに、40代の働き盛りの夫や、子育て中の主婦だって、突然発症することもありうる。この病気にならないための予防策はないのだろうか。
「必ず効果があるといえる予防策は、残念ながらありません。ただ、認知症全般にいえる予防策としては、運動・食生活・昼寝、そして2つのことを同時に行うデュアルタスク(ながら作業)などは、効果が期待できるかもしれません」
認知症はけっして高齢者だけの病気ではない。現役世代もリスクを遠ざける心がけが大切なのだ。