今年の冬は、屋内での凍死に気をつけよう──。
「えっ、家のなかで凍死?」と思う人も多いことだろう。熱中症の危険性は広く知られているが、低体温症による死亡(凍死)者は1,225人(厚生労働省「人口動態調査」2021年)で、熱中症の755人(同)の1.5倍以上に上る。
■12月9日、大阪在住60代の女性が家の中で凍死した
12月に入って暖かさと寒さを繰り返してきた大阪市。最低気温は8.6度。大阪急性期・総合医療センター(大阪・住吉区)に60歳代の女性が低体温症で搬送された。体の中心部の深部体温は25.2度まで下がっていた。糖尿病の持病があり、自宅で倒れていたところを発見されたが搬送中に呼吸・心臓が停止。そのまま息を引き取ったという。
「糖尿病の方はインスリンを打って血糖値をコントロールしますが、なんらかの理由でインスリンを打たないと高血糖になって意識がなくなることがあります。室内であっても、倒れて動けなくなり、室温が低ければ寒さで体の熱が奪われてしまうのです」
そう語るのは、高度救命救急センターの藤見聡センター長。
低体温症は、深部体温が35度以下の状態。深部体温は脇に挟んで測る皮膚温よりも、1度ほど高く、普通は37度に保たれているが、体熱が奪われ低体温症になると多臓器不全が起き、重症化すると凍死する可能性がある。
■凍死は雪山での遭難に限らず、実際は家のなかで起こるケースが多い
日本救急医学会の全国調査(2018~2020年)によると、低体温で搬送された人の8割が65歳以上。また屋内での発症は約7割を占めていた。冬期の低体温症は北海道や東北地方で起こると思われるが、大阪急性期・総合医療センターに23年1月1日~12月16日までで、低体温症で搬送された人は38人。関西や九州などでも多くの症例が報告されている。
藤見センター長がこう続ける。
「低体温症は高齢者に多いが、中高年でも甲状腺機能低下症や、糖尿病など意識を失うことがあるような持病がある人は注意が必要です。人間は恒温動物ですから、寒ければ服を着るなど対処しますが、意識を失って倒れてしまうと、低体温症に陥ることがあります」
12月中旬には、大阪急性期・総合医療センターに、徘徊しているときに転倒し、動けなくなって低体温症になった80歳代の女性が救急搬送されてきた。深部体温は25.6度まで下がっていたという。
低体温症で亡くなる人は、80年代には年400人程度だったが90年代から増加。毎年1,000人前後が凍死している。高齢化社会になり、認知症患者や独居老人が増えたことも増加の要因のようだ。ひとり暮らしの高齢者には周囲の人のが安否確認や見守りをするなど注意を払ったほうがいいようだ。
「この時期はお酒を飲む機会も多いと思いますが、アルコールによる酩酊状態から意識がなくなって凍死に至るケースも少なくありません。泥酔状態でもほとんどは3~4時間ほどで“寒い”と目が覚めることもありますが、気温の低い室内でそのまま寝てしまうと、そのまま低体温になり意識がなくなってしまうこともあるのです。また転倒して骨折したり、ベッドなどに挟まって動けなくなったりして低体温症になるケースもあります。凍死は、雪山での遭難など特殊なことだと思われていますが、実際は家のなかで起こるケースが多いことをしっかり認識して欲しいです」
■「寒い」と感じなくても室温は18度以上に!
低体温症を防ぐには、適切に暖房器具を使って、室温を下げないことが重要だ。WHO(世界保健機関)は『住まいと健康に関するガイドライン』において、寒い季節の安全な室温を18度以上にすることを推奨している。
「電気代が高くなっているが、適切に暖房をつけて室内を18度以上にしておくこと。また室内に寒暖計を置いてつねに室温を意識することも大切です。昨今は家に温度計を置いていないところが多いのですが、とくに高齢者の場合は、皮膚の感覚機能が低下しているため温度を感知することが難しい。部屋のなかが18度以下になったら暖房器具を利用するなど室温計を目安にすることが大事です」
暖冬が予想される今冬だが油断は禁物。底冷えする日もあれば、朝晩の寒暖差もが大きい日も。しっかり部屋を暖めて、低体温症から身を守ろう。