「沈黙の臓器」である腎臓は、機能が落ちても自覚症状がほとんどなく、健康診断B判定からあっという間に透析生活になることも……(写真:EKAKI/PIXTA) 画像を見る

「成人の7人に1人、45歳以上の4人に1人が“慢性腎臓病(CKD)”にかかっています。腎臓が悪くなると、血管系の病気や感染症にもかかりやすくなり、寿命を縮める大きな要因になるのです」

 

そう警鐘を鳴らすのは、看護師で腎臓病療養指導士の磯崎祐聡さん。登録者数18万人を超えるYouTubeチャンネルでも腎臓の大切さを発信している。

 

腎臓の役割は、体の老廃物をろ過し、尿として排出すること。尿中に溶け出しているタンパク質(尿蛋白)の量や、血中の老廃物であるクレアチニンが基準値より高い状態が3カ月以上続くなどの場合、腎機能が低下している可能性がある。

 

また、腎臓が尿に老廃物を排出する能力を示す“eGFR”(推算糸球体ろ過量)の値が60未満になると慢性腎臓病が疑われる。

 

「厄介なのは、腎機能全体の4割が失われても体に自覚症状が出にくいことです。尿蛋白が出続けているのに放置していると、多くの場合10?15年で人工透析になるケースが多いです」(磯崎さん、以下同)

 

さらに、命を脅かす次のような疾患のリスクも増大するという。

 

「腎臓の大切な役割のひとつに血管や血液のコントロールがありますが、腎機能が低下すると、血圧を一定に保てず高血圧に。すると血管が劣化して動脈硬化が進み、心筋梗塞などのリスクが高まるのです。脳の血管がもろくなれば脳梗塞を起こすリスクもあります」

 

加えて、感染症にまでかかりやすくなってしまうという。

 

「白血球には、体内に侵入してくるウイルス等から体を守る働きがあるのですが、腎機能が低下すると白血球の量や機能をコントロールできなくなるためです」

 

つまり、腎機能の低下は万病のもとになるのだ。腎機能悪化の自覚症状である、むくみやしびれ、胸の痛みなどが出たときには、すでに腎機能が30%以下になり、手遅れの可能性も……。

 

では、慢性腎臓病にならないためには、どうすればいいのか。

 

「まず、毎年必ず健康診断を受けることです。血液検査で腎臓の働きの指標となる“eGFR”が著しく落ちている場合は、腎機能の悪化が疑われます。一刻も早く専門医の診察を受けてください」

 

eGFR値は、クレアチニンを測定している場合は合わせて記載されていることが多い。

 

「協会けんぽが以前、76万人の健診データからeGFR値の分析結果を発表しました。それによると、50~54歳の平均値は77.4、55~59歳の平均値は75.5です。年齢とともに腎機能の働きは落ちていきますが、平均と比べてどうかという点を確認しましょう。低下のスピードが平均よりも速い場合は、早急に生活習慣を見直す必要があります」

 

健康診断がB判定でも、腎機能が急速に低下する場合もある。兆候があれば、一刻も早い受診をすすめる。

 

eGFR値が思わしくない場合、「腎臓に負担をかけている何らかの要因があるはず」と磯崎さん。

 

「肥満や高血圧、高血糖などの生活習慣病がある方は、腎機能も低下していることが多いです。とくに肥満は、腎機能の低下を招く代表選手。糖尿病や脂質異常も引き起こし、血管を傷つけて結果的に腎機能への負担が高まるからです」

 

今回、生活習慣をチェックできるリストを、磯崎さんに作成してもらった。ふだんから腎臓に負担をかけていないか、確認してみよう。

 

いったん機能が失われると、回復が見込めないといわれている腎臓。だが、早期発見ならある程度の改善も望めるという。

 

「生活習慣、とくに食生活を見直すだけでも、1カ月ほどでeGFR値が改善します。

 

私がパーソナルサポートをしているAさん(女性・50代)は体重が80kgあり、eGFRが60?67で平均より10以上低かったんです。血圧も180ほどありましたが、生活習慣を見直すと1カ月で体重が4kg減、血圧も130に下がり、eGFR値は79にまで改善しました」

 

実践したことは非常にシンプル。

 

「Aさんは、食後に間食してしまう習慣があったので、一日のスケジュール表を作ってもらいました。朝7時に朝食を取ったあとは、家事をすませて9時から有酸素運動を30分。昼食は12時から30分間、といった具合です」

 

慢性腎臓病が進行すればするほど、回復は難しくなっていく。あくまで早期発見が大切だ。加えて重要なのは、食べる食材と食べる順番だという。

 

「日々の食事に取り入れてほしいのが、黒ごま、きくらげ、黒豆、黒酢、メカブなどの“黒い食材”。黒い食べ物には、抗酸化作用があるポリフェノールなど腎臓を強くする成分が豊富に含まれています。とくに、メカブを食事の最初に取ることで、表面のゼリー状の水溶性食物繊維が、脂質や糖質、塩分などをからめとって便といっしょに排出してくれます」

 

反対に、やめたい習慣は……。

 

「100%の果汁・野菜ジュースにはお茶わん半分ほどの糖質が含まれます。急激に血糖値が上がるので、頻繁に飲むのは避けましょう。また、歯周病があると口内細菌が血液中に侵入し、血管を傷つけて腎臓に負担がかかることも。定期的な歯科検診も、腎臓を守るために大切です」

 

気づいたときは腎臓がほとんど機能していなかった……とならないためにも、年に一度は健診を受け、日々の食生活を見直そう!

 

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