■ひそかに進行する介護負担“原則2割化”計画
では、どのくらい介護保険料が上がりそうなのか。柏木さんが解説する。
「2000年度に始まった介護事業ですが、当初の第1号被保険者(65歳以上)の介護保険料の“基準額”は全国平均で月2911円でした。それが現在は6014円と倍増しています」
第1号保険料の基準額は3年に1度改定される。来年2024年度が次の改定のタイミングだ。これまでも改定のたびに基準額は引き上げられてきた。過去には20%を超える大幅な引き上げがされたことも。
「2020年に発表された大和総研のレポートでは、2024年の基準額は7100〜7200円に引き上げられる見込みがあると、試算されています。今回も約20%もの引き上げの可能性が指摘されているのです」(柏木さん)
65歳以上の人が実際に支払う介護保険料は、こうして改定された保険料を基準額として、所得状況に応じて、各地自体ごとに定められた算出方法で決定していく。
基準額が7200円となった場合でモデルケースの家庭を試算してみよう。新宿区の計算方法で算出すると、夫の介護保険料は年額3万240円で3360円の値上げ、妻は年額2万1600円で2400円の値上げとなる。
「年金生活者のなかには、日々、数千円を節約し、なるべく貯蓄を取り崩したくないと努力している人も多くいます。医療と介護の保険料の引き上げは、そういう方にとって大きな負担になるでしょう」(内山さん)
介護保険料の負担が増えるのだから、介護サービスは使いやすくなるのだろうと期待したいところなのだがーー。ある介護関係者が語る。
「現在、介護保険を利用する9割以上の人たちは、自己負担は1割になっています。しかし、2024年度以降に、“原則2割負担”にしようという議論が進んでいるのです。対象になるということは、介護費用が2倍になるのと同じことです」
2022年に一般社団法人日本デイサービス協会が行ったアンケート調査によると「原則2割負担にする議論があることを知っている人」は、全体の24%。知らぬ間に、介護費用が引き上げられようとしているのだ。
「たとえば自己負担1割で、要介護1の夫が7〜8時間のデイサービスを週2回(1回800円、月額6400円、いずれも自己負担額、以下同)、要支援1の妻が訪問介護サービスを週1回(1回300円、月額1200円)利用した場合、夫婦の介護の自己負担額は年間9万1200円になります。自己負担が2割に増えれば、自己負担額が2倍の18万2400円になってしまいます」(内山さん)
さらに症状が進み、夫が要介護3になり、デイサービスを週3回(1回1000円、月額1万2000円)受け、さらに介護ベッド(月1000円)をレンタルするようになった場合、年間で15万6000円も増額されることになるのだ。
費用がかかるため、介護サービスの利用を控え、症状を悪化させた結果、認知症などが進行してしまうことも懸念される。